毒ヘビは毒の配合を常に改良し、ヒトはヘビを素早く検知できるように進化した。それは他の動物でも同じようだ。
オーストラリア・クイーンズランド大学の研究によると、毒ヘビに咬まれた場合にネコの生存率はイヌの2倍であるという。この研究成果は『Comparative Biochemistry and Physiology Part C』のオンライン版に5月3日付で掲載されている。
ヘビが持つ毒はさまざまな種類の毒素を混合させた、いわば”毒のカクテル”だ。イヌやネコが毒ヘビに咬まれて死んでしまう主な原因は出血毒で、注入された毒素は血液中に含まれる血小板や凝固因子を大量に消費させ、逆に全身では出血が止まらなくなってしまう。
これは播種性血管内凝固症候群(DIC)と呼ばれる症状で、白血病やエボラ出血熱などでもみられる。出血が止まらなくなってしまうだけでなく、全身の血管には小さな血液の塊(微小血栓)が生じ、細かい血管が詰まるため、腎臓や肺などの臓器障害をもたらし、死に至らしめるのだ。
オーストラリアではヘビによるペット被害の76%が、陸生のヘビのなかでも屈指の猛毒を持つというイースタンブラウンスネーク(Pseudonaja textilis)によるものだ。このヘビに咬まれた場合、未治療におけるイヌの生存率は31%ほどであるが、ネコでは66%と約2倍もの差がある。しかし、なぜネコだけ生存率が高いのか、これまではよく分かっていなかった。
クイーンズランド大学の研究者らは、イースタンブラウンスネークを含む世界11種類のヘビ毒の凝固促進作用を、イヌとネコの血漿(けっしょう)を使ってそれぞれ調べた。その結果、どの毒においてもイヌの血しょうの方がネコよりも早く作用することが明らかになったという。イヌはどうやら、ネコよりも早く凝固障害に陥ってしまうようだ。
イヌとネコの行動の違いも生存率に影響
不審な物体に対する探索行動は、イヌの場合は血管が多く集まる鼻や口を対象に近づけるのに対し、ネコではよく前足を使って叩く。相手がヘビなら、咬まれたときにより致命傷となりうるのはイヌの方だろう、と研究者は指摘している。
さらに通常はネコよりもイヌは活動的であり、毒ヘビに咬まれた際には不利に働くという。活動的であると毒素が早く全身に回るからだ。
これらの研究は、ネコがヘビに強いというよりも、イヌがヘビに弱いことを示しているかもしれない。イヌを飼っている人のなかには不安な方もいるかもしれないが、日本の場合、たとえマムシであっても通常は犬を死に至らしめるほどではない。気を付けなければならないのはむしろ、人間の方だろう。