体内でお酒を作ってしまう病気、自動醸造症候群とは?

Drunk!
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2019年、アメリカのノースカロライナ州で警察は飲酒運転の疑いがある車を止めました。車に乗っていた40代後半の男は絶対に飲酒していないと言い張って呼気検査を拒んでいましたが、男の様子を不審に思った警察は近くの病院にまで連行しました。

日本とは異なりアメリカでは飲酒運転の基準値を呼気中のアルコール濃度ではなく血中のアルコール濃度で定めているため、飲酒運転の疑いがある場合は病院で血液検査を行います。

医師らが検査した結果、その測定値はやはりというべきか、男の血中からは0.2%のアルコールが検出されました。

例えば、体重60kgの人がアルコール度数5%の500mlビール缶を一本飲んだ時の血中アルコール濃度はだいたい0.05%ですが、この男性の血中アルコール濃度は0.2%だったので、ビール500ml缶を4本も飲んだ計算になります。日本の呼気中アルコール濃度に換算すると酒気帯び運転の基準値のなんと約6.7倍。

この血中濃度になると完全な酩酊状態で、歩き方がおぼつかなくなり、嘔吐したり何度も同じことを繰りかえし話したりといった症状がみられます。

いくら問い詰めても絶対に飲酒を認めないこの男性の主張は、警察はおろか検査を行った医師にすら信じて貰えませんでしたが、その後に行われたリッチモンド大学医療センターの検査によりある驚くべき事実が明らかになりました。

自動醸造(じょうぞう)症候群

リッチモンド大学医療センターによる診断の結果、この男性は自動醸造症候群(Auto brewery syndrome:ABS)、または腸発酵症候群と呼ばれている病気であることが明らかになりました。

これは腸内で異常に増加した出芽酵母が糖を代謝して大量のアルコールを生成してしまう稀な病気で、つまりこの患者は”体内でお酒を作ってしまう”だったのです。

自動醸造症候群の患者では、お酒を飲んでいないにも関わらずめまいや二日酔い、意識障害などの症状が表れ、さらに発酵に伴う過剰なげっぷやおなら、腹部膨満感といった過敏性腸症候群の症状がみられることもあるといいます。

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原因は抗菌薬の長期的な服用

自動醸造症候群を発症してしまう原因の多くは、抗菌薬の長期的な服用によるものとされています。

抗菌薬は細菌感染症の治療でおもに使用される薬で、細菌には有効であるものの、自動醸造症候群の原因となる酵母などの真菌には効果がありません。抗菌薬の服用によって正常な腸内細菌のバランスが崩れると、通常なら増殖できないような出芽酵母が勢力を拡大できるようになってしまいます。

今回のケースにおいても、リッチモンド大学医療センターの研究チームは男性が数年前に抗菌薬を服用していたことを確認しました。男性はその後、酵母にも有効な薬を使った抗真菌療法や正常な腸内細菌を取り戻すプロバイオティクス治療を行い、現在は普通の生活を行っているといいます。

自動醸造症候群は1970年代に日本でいくつかの症例がはじめて報告され、現代までに少しずつ認知されるようになってきましたが、稀な病気であるために正しく診断して治療できる医師はほとんどおらず、周囲はおろか患者自らも病気であることを理解していないケースが多いといいます。

本人はおろか、家族や医師ですらも見抜けない

アメリカ・テキサス州に住む61歳の男性はある日、意識障害によって病院に搬送されました。

医師は単なる泥酔状態であることを疑って男性の血中アルコール濃度を調べましたが、その結果血中アルコール濃度はなんと0.37%。これはアメリカにおける基準値の約5倍、日本の酒気帯び運転の基準値に換算すると約12.3倍もの数値になります。

医師はすぐにアルコールの多量摂取によるものと診断し、男性の家族もこれに同意しました。
男性の妻は、夫が普段から隠れてお酒を飲んでいると思っていたそうです。かつてアルコールを一滴も飲んでいないと主張する夫にショックを受けた妻は、アルコール検査器まで購入したことさえあるといいます。

その後、この症例を聞きつけた消化器内科の専門医が、男性を病院に24時間入院させてアルコールの摂取が原因でないことを証明するまで、本人はおろか家族や医師でさえも病気であることを見抜くことはできませんでした。

患者にとって、医師や周囲から理解を得られないことは大きな不幸です。この男性にとってはとても”酔って忘れられる”ような出来事ではないでしょう。
病気はなにも本人だけの問題ではなく、周囲の人々の気付きや支えが必要不可欠です。

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