深海生物が作り出す光の迷彩「カウンターイルミネーション」とは?

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暗闇が支配する深海において、獲物を見つけ出すことはそう簡単ではない。深海生物たちは獲物を捕らえるために、または外敵から身を守るために様々な進化を遂げてきた。深海生物に黒色のものが多いのは、深海の暗闇に紛れて敵から身を守るためであり、獲物に気付かれずに接近するためでもある。一方で、意外なことに深海生物には赤い体を持つものも多い。これは赤色の光が深海まで届かないため、深海生物のほとんどが赤色を認識できないからである。(参考記事:深海生物に赤色が多い理由とは?)

様々な方法で身を隠そうとする生物がいるなか、眼を退化させて”視ること”を諦めた深海生物も少なくない。チョウチンアンコウは眼を退化させる代わりに、背びれが変化してできた疑餌状の発光器で獲物をおびき寄せて食べる。ぬるぬるとした粘液を放出するヌタウナギの眼は皮膚の下に埋まって退化しているが、クジラなどの大型魚類の死骸が出す”匂い”を敏感に感じ取って探し出す。

真っ暗な深海ではこのように眼を退化させる傾向が一般的であるかのように思われるが、意外にも高度に眼を発達させた深海生物は多い。高感度の眼は、獲物が放つわずかな発光を捉えて発見することを可能とするが、”全く逆”の方法によって獲物を発見することもできる。獲物の”影”を捉えるのだ。


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海を泳ぐ魚を下から見ると、海面から入ってくる光を背景に魚の影が浮かび上がるのだ。水深1,000mまでの深海にもわずかな光が入ってくるが、高度に眼を発達させた深海生物はこのわずかに浮かび上がる魚影を捉えることができる。この方法で獲物を捕らえる深海生物のうち、最も分かりやすい例はおそらくデメニギスだろう。

デメニギスは黒い体、そして透明な頭部を持ち、その内部をはっきりと確認することができる。これまで捕獲されてきたデメニギスは透明な頭部が損壊していたため、この生きている動画がMBARI(モントレー湾海洋研究所)によって撮影されるまで、透明な頭部の存在は知られていなかった。そのため、少し古い図鑑には頭部に透明な膜がない姿のデメニギスが掲載されている。

このデメニギスの正面には眼のようなものがついているが、これは鼻孔であって眼ではない。本当の眼は透明な頭部の中に見える2つの球状の器官だ。この高度に発達した眼は上向きについており、海面から入るわずかな光を背景に、浮かび上がった獲物の影を捉える。この上向きの眼は前方へと戻すことができるので、見つけた獲物から眼を離さずにそのまま上に向かって泳ぐことができる。

海面から入ってくる光を背景にして、獲物の影を捉えるこの方法では獲物の色は関係ない。もはや体色によって身を隠す方法など無いように思われるが、驚くべき方法で敵の目を欺く深海生物もいる。ハダカイワシ科の魚は体の表面(主に腹側)に発光器を持ち、体表面を背景と同じ明るさに調節して発光させることによって、背景と同化して自らの魚影を打ち消すことができるのだ。このような仕組みは「カウンターイルミネーション」と呼ばれ、ムネエソやワニトカゲギス、カラスザメなどをはじめ数多くの深海生物に見られる。ホタルイカも、普段は深海に生息しており、このカウンターイルミネーションによって姿を隠すことができるという。(参考記事:神秘的な光を放つ「ホタルイカの身投げ」とは?)

また、カウンターイルミネーションを行う一部の種では、オスとメスで発光器に差があることが確認されており、産卵期には発光現象が雌雄でより顕著になるため、暗い深海で同種または雌雄を判別して探し出すためのマーカーにもなっているという。


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シンカイエソは水深1,000mより深い海に生息する底生性の魚だ。ここまでの深さになると海面からの光がほとんど入らず、カウンターイルミネーションは必要ないため腹部に発光器を持つ魚類は少なくなる。このシンカイエソは雌雄同体の魚で、出会ったパートナーの性別に左右されることなく繁殖することができる。

このカウンターイルミネーションをはじめ、深海生物のほとんどは何らかの方法で、そして何らかの理由により発光することが確認されている。暗闇が支配する深海は、意外にも生物たちが作り出す命の光で溢れているのかもしれない。

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