非常に珍しいダイオウクラゲの目撃例が急増している理由とは?

先月、ダイオウクラゲの目撃情報に関する研究成果がイギリス・エクセター大学の研究者らにより『Polar Research』にて発表されました。

ダイオウクラゲ(Stygiomedusa gigantea)、または学名「スティギオメデューサ・ギガンティア」はおもに水深1,000~3,000mの深海に生息し、成熟した個体では傘の直径1m以上、全長は10m以上にも達することもある巨大なクラゲです。

▽MBARIによるダイオウクラゲの貴重な映像

目撃例が少なく謎に包まれた生態

ダイオウクラゲの大きな特徴はなんといっても巨大な口腕(こうわん)です。ダイオウクラゲは一般的なクラゲが獲物を捕らえるための触手は持っていませんが、かわりに4本の巨大な口腕を有しており、この口腕を使って小魚やプランクトンを捕食すると考えらています。
その口腕の大きさは幅だけでもなんと1m、長さは10mにも及びます。


An extraordinary deep-sea sighting: The giant phantom jelly -MBARI Youtube-

やや赤みがかっているのは深海生物によく見られる特徴で、カモフラージュに役立っていると考えられていますが、その巨大さからそもそも天敵はほとんどいないと考えられています。

このクラゲが1899年に初めて採集され1910年に記載されて以降、北極を除くすべての海域で発見されていますが、120年経った現在までにわずか126件の観察記録しかありません。

しかも、その観察記録のほとんどがトロール漁により引き上げられたもので、クラゲのような体が柔らかい組織でできているものは形が崩れてしまうため、その生態は未だ謎に包まれています。

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ダイオウクラゲは近年になって直接の目撃例が急増している

この非常に稀なクラゲが、近年になって目撃例が急増していることをイギリス・エセクター大学が今年2月に発表しました。

例えば去年2022年1月には1週間のあいだに2回もの目撃例があり、さらに3月に1回、そこから今年2023年1月までに8回もの目撃例が報告されています。

これまでは平均して年1回程度しかみられなかったダイオウクラゲが、なぜ近年になりこれほど目撃されているのでしょうか?

実はダイオウクラゲが増えているのではなく、私たちがダイオウクラゲに遭遇するような機会が多くなっているのです。

このダイオウクラゲ、非常に深い深海に生息することで知られていましたが、実は南極の海では0~1,000mほどの比較的浅い水深でも観察されることが分かってきました。

2022年の異常なまでの目撃例は、調査船や漁船ではなく観光用の個人向け潜水艇の利用が増えてきたことによるもので、その目撃例のほとんどが水深80~280mで撮影されていました。


Personal submersibles offer novel ecological research access to Antarctic waters: an example, with observations of the rarely encountered scyphozoan Stygiomedusa gigantea -Polar Research-

もちろんこれらの目撃者は観光目的の一般人で、学術的に非常に価値があり、自らが乗る潜水艇をも上回るような巨大クラゲを目撃したのですから、これほどのサプライズはなかったでしょう。

今回の発表によると、水深50m以降の海はまだまだ十分に探索できているとは言えないそうで、個人潜水艇に乗ることができればダイオウクラゲに限らず誰もが歴史的発見者になれるチャンスがありそうです。

Reference
Extremely rare phantom jellyfish caught on camera -NATIONAL GEOGRSPHIC-
Personal submersibles offer novel ecological research access to Antarctic waters: an example, with observations of the rarely encountered scyphozoan Stygiomedusa gigantea -Polar Research-

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