世界中で読まれているエリック=カールの『はらぺこあおむし』では、主人公のあおむしがリンゴやナシなどさまざまなものを食べますが、実際にはカイコならクワの葉、ナミアゲハならミカンの葉・・・というように、ほとんどの昆虫で食べるものは決まっています。
昆虫たちはどのようにして食べることのできる特定の葉を見極めているのでしょうか。実は、その詳しいメカニズムはよく分かっていませんでした。
Leaf Veins flickr photo by michaelroper shared under a Creative Commons (BY-SA) license
東京大学と東京農工大学の研究者らが、カイコを使って観察および実験を行った結果、”二段階認証”でクワの葉を認識していることを明らかにしました。
カイコはまず、口の近くにある小顋肢(しょうさいし)と呼ばれる突起状の特殊な味覚器官を葉に押し当てて触診をします。どうやらカイコは、クワの葉に含まれるβ-ステロール、クロロゲン酸、カルセチン配糖体の3つの化合物を小顋肢で同時に認識しないと口にすらしないため、クワの葉の識別はこの小顋肢で行っているようです。
葉っぱの表面はワックスで覆われて乾いており、こうした水溶性の化合物の検出は困難であるはずですが、驚くべきことにカイコは、これらの化合物をフェムトモーラーレベル(1,000兆分の1)という極低濃度であっても検出できるようです。
1段階目の”認証”が終わると、カイコはクワの葉に対してのみ、高確率で試し噛みを行います。
クワの葉を噛むと、葉の内部の組織液がにじみ出てきますが、カイコは小顋肢の周辺にあるさらに小さい突起状の小顋粒状体(しょうさいりゅうじょうたい)で糖を感知します。
小鰓肢は超高感度のセンサーであったのに対し、どうやらこの小顋粒状体は低感度であるようです。言い換えれば、この小顋粒状体で感知するためには、大量の糖が必要ということです。栄養が無ければ、たとえそれがクワの葉であっても意味がありません。この試し噛みにより糖を検出して、はじめてカイコはクワの葉をムシャムシャと食べ始めます。
「異なる味覚器官」で、「異なる味」を順序通りに感じないと食べない――食べ物を触ってから試し噛みをして、ようやく食べ始めるといった行動はチョウやガをはじめ、バッタやハムシなど多くの葉を食べる昆虫に共通してみられるため、カイコの”2段階認証システム”を拡張すれば、いずれは昆虫における食物選択のメカニズムも解明できるかもしれません。
例えばハエも、同じように口以外で食べ物の味を感知していますが…どこで感知しているかご存じでしょうか?
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