ハエが前肢をスリスリとすり合わせる理由とは?ハエが味を感じる仕組み

2018年8月4日


Fly on a wall flickr photo by D Simmonds shared under a Creative Commons (BY-SA) license

ハエは最も身近な昆虫と言っても過言ではない。ルネサンス時代の絵画には画家の技量を示すものとして、または絵画がまるで日常の風景を切り取ったように表現するために好んでハエが描かれた。(参考記事:ルネサンス時代の絵画になぜハエが描かれているのか?)

ゴキブリやクモよりはいいかもしれないが、それでも独特の羽音や食べ物に集まる習性は不快なものだ。楽しく食事をしている最中にハエが飛んでいたら最悪の気分にもなるし、テーブルの隅でスリスリと前肢をこすり合わせて、ごちそうを狙っている姿には時として怒りさえこみ上げてくる。しかしながら、ハエはなぜ手をすり合わせるような動作をよく行うのだろうか?

ハエが味を感じる仕組み

この動作には、ハエの肢に秘密がある。ハエの肢の先端にある「ふ節」には、味を感じるための味覚毛という感覚子があるのだ。なんとハエは食べ物の上を歩くだけでその食べ物の味が分かるのである。ハエが肢をすり合わせる行動は、肢についた異物を取り払って味を感じやすくするために行う動作なのだ。

この肢にある味覚毛によって食べ物であると判断されると口吻(こうふん)と呼ばれるストロー状の器官を反射的に伸ばして、食べ物を舐め取るための準備を始める(吻伸展反射)。この口吻の先には唇弁(しんべん)と呼ばれる部分があり、ここにある味覚毛で口にする前に再び味を確かめる。

最終的な味のチェックは食道部分で行われるが、この部分で味覚を感じる役割についてはまだよく分かっていないという。推測では、ここで有害な物質が検知された場合には吐き出す反応を引き起こし、それ以外の場合では飲み込む反応を促進させるのではないかと考えられている。

ハエはどのような味を好むのか?

味を感じる部分である味覚毛には味孔(みこう)と呼ばれる非常に小さい穴が先端に開いており、ここで食べ物の分子を取り込んで、味覚毛の内部にある味細胞によって摂食すべきものであるか、あるいは有害なものであるかを判断する。

私たち人間にとっての味覚とは味を楽しむことが目的であり、苦味や酸味であれどんな味も好んで食べているが、苦味はもともと有害な物質を含む食品を避けるための味であり、酸味は腐敗した食品を避けるための味である。味を感じる仕組みとは、本来はこのように有益か有害であるかを判断するためにあるのだ。

人間では甘味・塩味・酸味・苦味・うま味の5つの基本味を感じるが、ハエの場合は糖分を感じる「甘味」と塩分を感じる「塩味」、人間には無い「水味」の3つがある。なんとハエは水にも味を感じるのだ。ハエの味細胞は4つあり、それぞれが別の味を感じるため、あと1つだけ別な種類の味を感じるはずであるがまだ詳しく分かっていない。ちなみに甘味に関しては単糖類と二糖類・三糖類のみに反応するため、ハエは人工甘味料では甘味を感じないという。


To be a fly on the wall… flickr photo by kimadababe shared under a Creative Commons (BY) license
肢で味を感じたとき、それが十分な刺激に満たない場合、つまり”薄味”である場合は口吻を伸ばしたまま、第一発見場所の周辺をまるでダンスをするように探索行動を行うことが知られている。

味覚を感じるだけではない味覚毛の働き

興味深いことに、味覚毛は肢や口吻以外にもメスの腹の末端にある産卵器官や翅(はね)にも存在している。産卵器官にある味覚毛は、産卵場所が適しているかどうかをチェックするためにあると考えられているが、翅にある感覚毛については未だ謎に包まれている。一体どのような役割があるのか、今後の研究が待たれるところだ。

また、オスは求愛行動としてメスの腹部を味覚毛がある肢で触ったり、生殖器に口吻を伸ばしたりする。これは味覚毛でメスのフェロモンを受容するための行動と考えられており、それを裏付けるようにショウジョウバエの場合ではメスの前肢にある味覚毛が37本あるのに対し、オスでは50本と性差が確認されている。

ハエが手をすり合わせる行動は、手の汚れを落として食事を行うための準備である。彼らが”食事”をすることによってせっかくの料理を台無しにされるのは困ったものだが、ハエはO157などの食中毒の原因となる細菌を媒介することが知られているため、ハエが付いたと思われる食品については食べるのをなるべく避けた方がいいだろう。

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