Coin Toss flickr photo by ICMA Photos shared under a Creative Commons (BY-SA) license
あなたは今、コイントスで賭けをしており、現在までに3回すべてが「裏」になっている。あなたは次に表と裏のどちらに賭けるだろうか?
「裏ばかり出ているから、次はきっと表が出るはず――」といった心理によって、「表」の方に賭けてしまうかもしれない。しかし、この考え方に基づいて「表」に賭けてしまうのは誤りだ。このように、ある事象の発生頻度が高いほど、その後の発生頻度が低くなるという考え方、あるいは心理的作用をギャンブラーの誤謬(ごびゅう)という。
大数の法則は正しいが、収束する作用がはたらくわけではない
確かに、コイントスを多く行うほど、裏と表が出る確率はそれぞれ50%に収束していく。いわゆる“大数の法則”であるが、これはコイントスで表または裏が出る理論的確率が50%である結果として起きるものであり、裏が多く出るほど次に表が出やすくなるような特別な作用がはたらくわけではない。くじ引きのように当たりとハズレの数が決まっているような場合でない限り、過去の結果が未来の結果に影響することは無いのだ。
なぜ「ギャンブラーの誤謬」は起きるのか?
先程のコイントスの例に戻って考えてみよう。3回連続で「裏」が出ているとき、次のコイントスで裏が出る確率は1/2だが、私たちはついつい直前の状況、つまり「4回連続で裏が出る確率」について考えてしまう。4回連続で裏が出る確率は1/2×1/2×1/2×1/2で、結果は1/16。私たちは「これはなかなか起こりにくいことだ」と信じ込んでしまうのだ。
だが、コイントスで3回連続裏が出て、4回目だけに表が出る確率も同じだけの確率(1/2×1/2×1/2×1/2=1/16)であることに気付けば、明らかな誤りであることはすぐに分かる。
日本武道館の観客全員がコイントスを行うと?
このように理屈で理解できていても、私たちはしばしば確率のイメージに振り回される。例えば、10回連続で裏が出ることはまず起こりえないことだと考えてしまうが、1/1024の確率で起こりうることだ。日本武道館の最大収容人数は14,471人だが、試しにこの観客全員が10回コイントスを行ったとき、すべてが裏になる人は理論上14人もいることになる。さらには、すべて表が出る人も同じだけ存在するのだ。
10回連続で裏が出た人はまるで、何らかの“見えない力”が働いているような、超自然的なものに操作されていると感じるかもしれない。しかし、これは実際には起こりうることなのだ。
1913年、モンテカルロのカジノで起きた事件
1913年8月18日、モナコのカジノ・ド・モンテカルロで面白い出来事が起きた。ルーレットゲームでなんと、26回連続でボールが黒に入ったのだ。これは計算によると6,660万分の1の確率にも相当する、非常に稀な出来事だった。このとき、「次こそは赤が出るはずだ」と躍起になったギャンブラー達はこぞって黒以外に賭け、多くのプレイヤーが大損してしまったという。この有名な“事件”から、ギャンブラーの誤謬は「モンテカルロの誤謬」と呼ばれることもある。
ソーシャルゲームのガチャ、パチンコなどでもギャンブラーの誤謬は起こりうる
ギャンブラーの誤謬は、私たちの身の回りにある確率に対して、常につきまとう考え方だ。くじ引きのように、はずれの数と当たりの数が決まっているような場合では、はずれを多く引くほど次にくじを引いたとき当たりが出やすくなるからだ。この場合においては、「ギャンブラーの誤謬」における考え方は正しいものとなる。
ようするに、どのような抽選形式なのか区別できていない状況が、私たちの正しい判断を妨げているのだ。
例えば、ソーシャルゲームの”ガチャ”では、しばしば「出現確率X%」といったような表記がみられる。もしあるアイテムの出現確率が10%のガチャがあるとしたら、10回ガチャを引くことで1回は出るものと考えるかもしれない。しかし、実際には「1回ガチャを引いたときの出現確率が10%」であるため、10回ガチャを引いたときに出現する理論上の確率は100%にはならない。
試しに計算してみよう。
出現確率が10%ということは、ガチャを1回引いてはずれる確率は逆転して90%だ。2回目もはずれる確率は0.9×0.9=0.81、つまり81%になる。このように、3回目、4回目と計算していくと――
1回目 90%
2回目 81%
3回目 73%
4回目 66%
5回目 59%
6回目 53%
7回目 48%
8回目 43%
9回目 39%
10回目 35%
10回目まではずれる確率が35%、つまり3人に1人は目的のアイテムを引くことなく10回目のガチャを終えてしまうのだ。出現率1%のレアアイテムならなおさらだろう。100回ガチャを引けば1回は当たると思って100回引いたとしても、はずれる確率は約37%。こちらも3人に1人は当たらないまま100回目を終えてしまうのだ。
こうなると今度は、「ある目的のためにお金投資して失敗すると、それまでの投資を惜しんで、あとに引き返せなくなる」というコンコルド効果までもはたらき、ギャンブラーの誤謬もあってさらに次のガチャに賭けてしまうだろう。
ギャンブラーの誤謬を防ぐためには?
コイントスにおいて「裏」が多く出ているとしたら、通常ならコインの物理的特性や投手のこだわり、クセなどの”裏が出やすい傾向”を考慮して「裏」に賭けた方が、わずかにでも当たる確率は高くなるだろう。
特定の傾向に注目するのは良いことだ。ゲームの抽選方式、そして正しい理論的確率を理解していれば、ギャンブラーの誤謬に陥ってしまうことはないはずだ。
このギャンブラーの誤謬と同様に、直感に反する確率の問題には、モンティ・ホール問題という有名な話が知られている。3つのドアがあり、そのうち2つのドアはハズレで、正解のドアを当てることができれば、あなたは豪華な景品を手に入れることができる。
あなたが3つのうちの1つの扉を選んだとき、司会者はあなたが選ばなかった2つのドアのうち、外れのドアを1つだけオープンしてあなたに教える――扉を変えるチャンスはこれで最後だ。最初に選んだドアをそのまま開くか、それとも選ばなかった残りのドアに変更すべきなのか――?
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数学者までも間違える確率問題「モンティホール問題」とは?