多くの人が信じて大混乱を招いたエイプリルフールのサイエンス・ジョーク

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4月1日は「エイプリルフール」で、世界的に”嘘をついても許される日”ということになっているが、科学の分野ではエイプリルフールにちなんだジョークによって、たびたび大混乱となることがあった。その一例として、”クロード・リットル”の話がある。

リットルの語源はクロード・リットル?

1978年、カナダ・ウォータールー大学のケネス・ウールナー氏は4月1日の科学ニュースレターで、「体積の単位であるリットルがなぜ大文字なのか」という説明において、「顕著な科学の業績を残した”クロード・リットル”という人物に由来するもの」という架空の作り話を掲載した。

メートル(m)、キログラム(kg)などの国際単位系(SI単位)では通常、人物名に由来する単位については基本的に大文字で書くこととなっている。例えばアンペア(A)やケルビン(K)がそうだ。

しかし、リットルについては小文字の”l”が数字の”1”と似ているため、人物名に由来する単位ではないが、例外的に大文字と小文字の両方の使用が認められているのだ。彼のもっともらしいような嘘は一部で信じられ、なんと1980年には国際純正応用化学連合(IUPAC)の『Chemistry International』に誤って掲載されるまでに至ったという。もちろんこの内容は次号で訂正されたが、有数の国際機関を騙したのだからエイプリルフールの歴史においては大成功したものの一つだろう。

四色問題の反例が見つかった?

同じようなものに、この話より少し前の1975年にアメリカの数学者であるマーティン・ガードナー氏の逸話がある。彼は科学雑誌『Scientific American』の4月号において、「なぜか世間の注意をひかなかった6つの衝撃の発見」と題して、その一つに”四色問題の反例が見つかった”という嘘のコラムを掲載した。

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Four Colour Map Example [CC BY-SA 3.0wiki commons
四色問題における色分けの一例。マーティン・ガードナー氏が掲載したものとは異なる。

四色問題は、”すべてのあらゆる地図は、隣り合う領域が同じ色にならないように塗り分けるために最低でも4色必要である”という予想問題であり、この架空のコラムが掲載された翌年の1976年にはケネス・アッペルとヴォルフガング・ハーケンがコンピューターを使って証明に成功したが、コラム掲載当時はまだ証明されていなかった。

マーティン・ガードナー氏は四色問題の反例として、「4色で塗り分けできない」とされるパターンの地図を掲載したが、現在では四色問題が証明されている通り、実際には4色で塗り分けが可能であった。そのため、「4色で塗り分けできた」という手紙が千通以上も殺到したという。

有名なジョーク「DHMO」で騒動に

科学分野において最も大騒がせしたのは、恐らくはDHMOだろう。1980年代初頭に、ミシガン州の週刊新聞である『Durand express』がエイプリルフールのジョークとして「都市の水道にはDHMO(一酸化二水素)という化学物質が含まれており、この物質は皮膚に激しい水膨れを引き起こす蒸気を生成する」という内容の記事を掲載した。一酸化二水素とは1つの酸素と2つの水素からなる化合物、つまり”水”のことであり、「皮膚に激しい水膨れを引き起こす蒸気」とは、単純に高温蒸気による火傷の症状だ。このジョークは後に世界的に広く流用され、多くの人々がこの話を信じてDHMOの禁止を訴える署名運動などに参加し、反対を訴えた。しかしながら、DHMOは誇張されているとはいえ、事実のみを伝えているため厳密にはエイプリルフールに相応しいような”嘘”とは言えないかもしれない。(参考記事:身近に潜む危険物質「DHMO」とは?)

現在ではサイエンス・ジョークの定番となっているこのDHMOであるが、2013年にはちょっとした悲劇があった。アメリカ・フロリダ州のラジオで、2人のDJがエイプリルフールのジョークとして”DHMOが地元の水道水に大量に入っている”とリスナーたちに警告したところ、地元の水道局に問い合わせの電話が殺到したのだ。この一件により、2人のDJは無期限謹慎処分となった。

空飛ぶペンギン?

最も多くの人を驚かせたのは恐らく、2008年にBBC(英国放送協会)が放送した”空飛ぶ”ペンギン”だろう。世界最高峰の動物ドキュメンタリーを撮影するBBCが制作したこの映像は非常にリアルで、エイプリルフールのジョークであると気付かなかった多くの視聴者から問い合わせが殺到したという。


南極に生息するこのペンギンは、越冬のために南米の熱帯雨林へと長距離移動するという。

エイプリルフールでなくとも、私たちの日常はありとあらゆる”嘘”の情報で溢れかえっている。これらに騙されないために、そして私たち自身が”嘘つき”にならないために、常に論理的な思考をもって、あらゆる物事の真偽を注意深く判断していかなければならない。

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