高齢化とともに少子化が問題となっている日本。出生数は年々減少しており、2016年には年間出生数がついに100万人を切り、去年2018年は92万1千人と過去最少記録を更新している。下のグラフは2016年までの日本における男女それぞれの出生数を表したグラフだ。
青いグラフは男性の出生数、赤いグラフは女性の出生数を表している。男性の出生数は常に女性を上回っているが、これは日本に限ったことではなく、世界における出生数は男性の方がわずかに多い。(参考記事:日本の男女比はどのようになっているのか?)
このグラフを見れば、現在の少子化が1974年の第二次ベビーブーム以降から始まっていることが分かるが、他にも日本の出生率において”ある驚くべき変化”があることは一目瞭然だろう。そう、1966年頃に出生率が激減しているのだ。一体何が起きたのだろうか?
キーワードは干支
この”現象”がなぜ起きたのかを説明するためには、干支(えと)について知っておかなければならない。
干支は「子・丑・寅・卯・辰・巳・午・未・申・酉・戌・亥」からなる十二支(じゅうにし)と、「甲・乙・丙・丁・戊・己・庚・辛・壬・癸」からなる十干(じっかん)を組み合わせた暦だ。
「子・丑・寅・・・」から始まる、動物に対応された十二支は比較的、私たちになじみ深いものであるが、「甲・乙・丙・・・」から始まる十干の方は、もしかしたら聞きなれないという方が多いかもしれない。しばしば十二支のことを指して”干支”と呼ばれることもあるが、正しくはこの十二支と十干を合わせたものを干支という。
ある年には”決まった十二支”が定められているように、同じ年には”決まった十干”も定められている。例えば今年2019年は、十二支では「亥」の年であるが、十干では「己」の年だ。この2つを合わせた「己亥(つちのとい)」が今年の干支ということになる。
翌年2020年の場合は、十二支では「亥」の次である「子」の年、十干では「己」の次である「庚」の年となり、2020年の干支は「庚子(かのえね)」ということになる。
2021年は「辛丑(かのとうし)」、2022年は「壬寅(みずのえとら)」・・・というように、干支は十二支と十干の組み合わせで決定される。十二支は12個、十干は10個で1周するため、十二支は5周、十干は6周するとちょうど同じ干支に戻る。つまり干支は60種類あって、60年で1周するのだ。
1966年何が起きたのか?
さて、1966年の出生数激減には、この干支が大きく関わっている。
干支には古くから、「ある年に生まれた人は、その年の干支に対応した性格になる」という”迷信”が根強く信じられており、例えば2019年生まれである「己亥」の男性は”自尊心が高く、知的だが繊細”、女性は”孤独を好み、決断力に欠けるが優しい”といった具合だ。それぞれの十二支と十干には決まった”性質”があって、その組み合わせで性格や人生を占うのだ。
そのため、好ましくない干支では子どもを産まないようにすることは歴史的に少なくなかった。特に1966年の干支は丙午(ひのえうま)で、女性では”気性が荒く、夫の運勢を壊して短命にさせる”という迷信が強く信じられたため、1966年の出生数は前年となる1965年のなんと25%も出生数が減少するという事態が起きたのだ。ちなみに1966年の60年前である1906年も丙午(ひのえうま)であったが、出生数は4%程度の減少に留まっている。1966年の激減は、戦後の”男性優位主義”的な思想が強く表れていたのかもしれない。
出生数の減少は”この年に生まれた女性が結婚には適さない”という迷信を反映させたものであり、裏を返せば”丙午(ひのえうま)の年に生まれた女性との結婚は敬遠した方がいい”という、ある種の差別的思想の表れでもある。非科学的な迷信に囚われて、最適なパートナーをみすみす見送ってしまうようなことがあれば、それこそ不幸になりかねない。次の丙午(ひのえうま)は1966年の60年後の2026年だが、この年の出生数は再び減少してしまうのだろうか?