ハエなのに翅を持たない?コウモリに寄生する「クモバエ」とは?


Short-tailed Fruit Bat flickr photo by Andy Morffew shared under a Creative Commons (BY) license

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ルネサンス時代の絵画ではハエがよく描かれているが、それはハエが日常に馴染み深い昆虫であり、絵画の中に描かれた世界をリアルに表現するためだ。(参考記事:ルネサンス時代の絵画になぜハエが描かれているのか?)
英語ではハエを”fly”というが、”fly”には「飛ぶ」という意味もあるように、ハエが忙しなく飛び回る様子をそのまま名前にして表現している。

日本におけるハエという名前も、一説には「羽延(ははえ)」が語源なのだそうだ。それほどにハエは翅を持ち、空を飛ぶという昆虫の代名詞とされているのだが、ハエのなかには翅を退化させて空を飛ぶことをやめたものがいる。

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Gilles San Martin from Namur, Belgium [CC BY-SA 2.0 ]

それが、ハエ目クモバエ科に属する昆虫「クモバエ」だ。英語では”bat fly”と呼ばれ、その名が示す通り主にコウモリ類に寄生して血を吸って生活している。全世界の種数は250種以上といわれており、日本では十数種が確認されている。体長はおよそ2~5mmほど。胸部や腹部は平らで、長い肢の先端にある爪はハエとは思えないほど発達しており、コウモリの体にしっかりとしがみ付いて簡単には離れない。動きはハエのように俊敏で素早いが、その姿はさながら6本の肢を持ったクモのようにも見える。


Anterior leg of a Nycteribiidae fly flickr photo by Gilles San Martin shared under a Creative Commons (BY-SA) license
肢は発達して長くなっており、先端にある爪はよく発達している。

ハエの特徴といえば大きな複眼もそうだが、クモバエの眼はかなり小さいか、あるいはほとんど消失している。一生のほとんどをコウモリに寄生して過ごすため飛び回る必要もなく、コウモリ同様に洞窟などの暗い環境のため眼が退化したものだと考えられていれる。

クモバエの生活史は見た目以上に奇妙だ。一般的なハエは卵を産んだ後そのまま放置するが、このクモバエの赤ちゃんは母親の体内でふ化し、母親の分泌物を食べて成長していく。いわば哺乳類と同じような胎生の仕組みを持っているのだ。成長した子供は前蛹(ぜんよう)という蛹(さなぎ)になる準備段階となり、母親はこのときだけ宿主から離れてコウモリの寝床や天井などに移動して”出産”を行う。出産を終えたあと母親は再びコウモリの体に戻り、産み落とされた子は前蛹段階からそのまま蛹となってしばらく過ごし、近くにコウモリがいるのを察知すると羽化してコウモリに飛びかかって寄生する。

Fledermausfliege

クモバエの生態にはまだ未解明な部分が多い。例えば、ケブカクモバエというクモバエはユビナガコウモリという種類のコウモリにしか寄生しないことが知られているが、同じ洞窟のすみかに他の種類のコウモリがいるにも関わらず、ケブカクモバエはユビナガコウモリだけを選んで寄生するのだ。このように、決まったコウモリにしか寄生しないクモバエが、どのようにして自分が寄生するコウモリの種類を識別しているか詳しくは明らかになっていない。

クモバエに近縁のハエにはコウモリバエ科が存在する。このハエの仲間はクモバエと同じようにコウモリに寄生するが、クモバエと比較して発達している翅が生えていることや複眼が未発達ではあるがクモバエよりも個眼が多いこと、胸部や腹部が平らではないことなど通常のハエと同じような特徴などを持っている。コウモリバエは飛んで直接コウモリに接近して吸血するが、飛ぶにはエネルギーが必要であるし、吸血した後ならなおさらだ。その点においてはクモバエの方が優れているといえるだろう。

翅と眼を退化させ、寄生するためだけに発達した異形の姿。これからの研究で、どのような興味深い生態や能力が明らかになるのだろうか。