sky flickr photo by ken.jumper shared under a Creative Commons (BY-SA) license
私たちが普段見ている青空も,他の生物の眼には全く異なる景色が映し出されている。ヒトが知覚することのできる光の性質は基本的に波長と振幅の2つだけだ。波長は色に対応し、振幅は強弱(明るさ)にそれぞれ対応している。一部の鳥類や昆虫ではこれにもう1つが加わる。それは光における電場と磁場の振動方向の知覚、すなわち偏光を識別することができるのだ。偏光は電場(または磁場)が特定の振動方向を持つ光のことで鳥類や昆虫は空の偏光パターンから現在の位置や、進むべき方向を正確に把握することができる。
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驚くべきことに,シャコは直線偏光だけでなく円偏光の回転方向を識別できるという。シャコは現在までに確認されている生物の中で唯一,円偏光を利用できる。(参考記事:シャコの目に秘められた驚異の視覚能力とは?)ヒトはここまで高度に偏光を利用できないが、実はヒトにも偏光を”見る能力”が備わっている。1846年にオーストリアの地質学者であるウィルヘルム・フォン・ハイディンガーにより報告された「ハイディンガーのブラシ」と呼ばれる内視現象だ。
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眼球内に起因する視覚現象を内視現象という。ハイディンガーのブラシの詳細な発生機序は解明されていないが,網膜黄斑部のヘンレ層の黄斑色素による光吸収が成因とされている。偏光した光――例えばパソコンやスマホにある液晶ディスプレイの光を見たときに、このような淡い黄色と青色の模様をヒトはわずかに知覚することができる。この”ブラシ”は常に視野の中央に現れるため動かないものを知覚しにくいヒトの眼には見えづらい。頭やディスプレイをゆっくり傾けることでより見やすくなる。
言い伝えによれば、ノルマンのバイキングたちは雲に隠れがちな極北の太陽の代わりに”サンストーン”と呼ばれる水晶を偏光フィルター代わりとして空の偏光パターンを読み取り、進むべき針路を決めていたという。真偽は定かでないが、ヒトの知性も他の生物たちが持つ特殊能力に勝るとも劣らない。