たまねぎを切ると目がしみるのは硫化アリルのせいではない


Winter Onion flickr photo by Claricethebakergardener shared under a Creative Commons (BY-ND) license

日本では元々観賞用として伝来されきた玉ねぎ。江戸時代に南蛮船によってe>長崎にもたらされ,初めて食用として栽培されたのは明治に入ってからだ。玉ねぎには硫化アリルが多く含まれており,消化液の分泌を促し食欲を増進させる。また,血液をサラサラにする効果もあるので脳血栓や高血圧の予防にも効果がある。ジスルフィド類は血糖値を下げて正常値に保つ働きもあるので糖尿病の治療や予防にも効果があるといわれている。
現在では多くの料理で使われる玉ねぎだが、玉ねぎを切ったときに目にしみるのは何故なのか?

涙が出る原因となる催涙物質として,よく硫化アリルが紹介される事が多いが、実は,硫化アリルが化学反応を起こして生成された物質が、目がしみる原因を作り出している真犯人なのだ。タマネギを切って細胞が傷つけられると,アリイナーゼという酵素が硫化アリルをプロペニルスルフェン酸に変化させ,これが催涙成分合成酵素によって催涙成分であるプロパンチアール-S-オキシドに変化するのだ。

揮発性の高いこの物質が目や鼻などの粘膜から入ることで強い催涙効果をもたらす。今までは,硫化アリルがプロペニルスルフェン酸に変化した後に自動的にプロパンチアール-S-オキシドに化学変化すると考えられてきたが,これには催涙成分合成酵素(lachrymatory-factor synthase:LFS)が関わっていることをハウス食品の研究者が発見し,2002年にイギリスの科学雑誌「Nature」で発表し,この業績により2013年には「人々を笑わせ,そして考えさせる研究」に贈られるイグ・ノーベル化学賞を受賞した。

硫化アリルはネギやニンニクなどの他の食品にも含まれているが切っても玉ねぎのように目にしみないのはこの催涙成分合成酵素が含まれていないためだったのだ。
ハウス食品は催涙成分の合成反応に関わる酵素のアリイナーゼの働きを非遺伝子組み換え手法によって,切っても目にしみず生で食べても辛味のない「スマイルボール」という玉ねぎの開発に成功した。

ちなみに,催涙成分は揮発性が高いので、電子レンジで20秒ほど過熱して揮発させてしまうか冷蔵庫に1時間ほど冷却して揮発させにくくすることで目がしみるのを防ぐことができる。
また,切るときは換気を行い、玉ねぎの繊維にそって切ると細胞を壊しにくいので催涙成分の発生を抑える事ができる。このような催涙効果は植物が動物から身を守る為の防衛機構だが、フグの調理方法といい,人間の食に対する飽くなき探究心には敵わない。

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