Cassiopea – Upside down Jellyfish flickr photo by prilfish shared under a Creative Commons (BY) license
サカサクラゲの一種。
サカサクラゲは、その名が示す通り上下逆さまになって生活するクラゲです。
このクラゲは体内に褐虫藻(かっちゅうそう)という藻類を共生させており、褐虫藻が光合成によって作り出した養分を貰って必要なエネルギーの大部分を賄っているため、積極的に獲物を捕らえる必要はありません。
そのため、刺胞(毒針を発射する細胞)の毒は弱く、「ほぼ無害なクラゲ」とされてきました。
クラゲに触っていないのに”刺される”
サカサクラゲの一種である”Cassiopea xamachana”は、アメリカのフロリダ州やカリブ海、ミクロネシア周辺の浅い海に生息しています。
このクラゲも他のサカサクラゲと同様に刺胞毒は弱いものの、奇妙なことにこのクラゲが生息する水域では、直接クラゲに触れていないにも関わらずまるで刺されたときのように「肌がヒリヒリ」することがよくありました。
”stinging water”と呼ばれるこの謎の現象は、マングローブ林の流域でシュノーケルやサーフィンを楽しむ人々にとっては古くから知られていました。
従来まではサカサクラゲから分離された触手や、見えにくい小さな子どものクラゲによるものとされてきましたが、米海軍調査研究所の研究チームがサカサクラゲ属に関する文献を1900年代初頭にまでさかのぼり、”stinging water”に関する手掛かりを調べた結果、このサカサクラゲの一種が粘液とともにある”小さな細胞塊”を分泌していることが明らかになりました。
刺胞細胞のカプセル、カッシオソーム
サカサクラゲは外部から刺激を受けると”カッシオソーム(cassiosome)”と呼ばれる小さな細胞塊を無数に放出し、これに触れると外層にある数千個の刺胞細胞から刺胞毒が発射されるといいます。
つまり肌がヒリヒリするという謎の症状に見舞われていた人々は、どうやら何らかの理由によりサカサクラゲを刺激し、放出されたカッシオソームによって実際に「刺されて」いたようです。
▽論文の特筆者、Anna Klompen氏がYoutubeにアップロードした動画。カッシオソームに触れたブラインシュリンプ(アルテミア)はたちまち動けなくなって死んでしまいます。
▽容器内に大量のカッシオソームを入れ、そのなかにブラインシュリンプ(アルテミア)を入れる実験。投入から1分後、ほとんどのブラインシュリンプは動けなくなってしまいました。
さらに研究チームは、サカサクラゲの一種(Cassiopea xamachana)の他に、4つの近縁種(Mastigias papua,Phyllorhiza punctata,Netrostoma setouchianum,Catostylus mosaicus)でもカッシオソームを放出することを確認しているといいます。
この研究成果は、イギリスの科学誌『ネイチャー・コミュニケーションズ・バイオロジー(Nature Communications Biology)』に掲載されました。