悪名高い害虫、ハダニがイモムシの足跡を避けることを発見――京都大学

京都大学の研究チームはこのほど、ハダニがイモムシの足跡を避ける性質があることを発見しました。

この研究成果は2023年2月1日に国際学術誌である『Scientific Reports』にオンライン掲載されています。

多くの農薬が効かないうえに数百種もの作物を加害する、悪名高い害虫「ハダニ」は、これまでの研究によりアリなどの肉食性の虫の足跡を避けることがわかっています。

しかしハダニにとって最も恐ろしい敵はこうした肉食性の虫ではありません。実は同じ草食であるセスジスズメやハスモンヨトウなどの幼虫、いわゆるイモムシです。

イモムシはハダニが築き上げたすべてを奪う

これらのイモムシは草食であり、ハダニを積極的に襲って食べることはありませんが、0.5mmほどのハダニがもし葉についていたとしてもイモムシたちにとってそれは「いない」も同然です。

イモムシたちはハダニが付いているか否かに関わらず、ハダニを葉っぱごと食べるのです。(ギルド内捕食)

こうした被害はハダニの捕食者の比ではなく、例えばハダニの天敵であるカブリダニはハダニの卵を1日に十数個ほども食べますが、イモムシ何十個もの卵がついた葉を10分ほどで完食できます。

ひとたびイモムシがやってくれば、ハダニは自らの命だけでなく産んだ卵や子、長い時間をかけて作られた巣網などの全財産を失なってしまいます。

ハダニにとってイモムシはまさに”巨人”であり、もはやどうすることもできない大災害です。


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ハダニはイモムシに会いたくない

今回、京都大学農学研究科の研究チームは、天敵であるアリの足跡を避けるようにこれらイモムシとの遭遇を避けるなんらかの手段を持っているものと仮説を立てました。

ハダニのメスは脚にある匂いのセンサーで住処をよく吟味してから葉に定着することが知られています。

研究者らはイモムシが歩いた葉をハダニのメスが避けるかどうかを調べるために、分類上の科が異なるカイコ、セスジスズメ、ナミアゲハ、ハスモンヨトウの幼虫をインゲンマメの葉のうえで歩かせ、歩いた側と歩いていない側のどちらにハダニが定着するか調べました。

その結果、実験対象であるナミハダニ、カンザワハダニのいずれもイモムシの足跡を避けて定着しました。


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興味深いことに、ナミハダニとナミアゲハはエサとなる植物が異なるため、通常出会わないような組み合わせですが、ナミハダニはしっかり足跡のない方を選んでいました。
どうやら、ハダニはチョウやガの幼虫全般の足跡を避けているようです。

応用すれば夢の農薬が作れる可能性も

さらに研究者らは追加の検証で、ハダニは足跡についた何らかの化学物質を手掛かりに避けており、この物質による忌避効果は2日以上も続くことが明らかになったといいます。

ハダニは世代時間が約10日と短く、新しい農薬を開発してもすぐに効かなくなるというような薬剤耐性の獲得能力が高いことで知られています。

論文の特筆者は今回の発見について、この足跡物質を利用することができれば、天然かつ効果が長持ちする「夢のハダニ忌避剤」が実現するかもしれない、と説明しています。

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害虫の王者が芋虫の足跡を嫌うことを発見―はらぺこあおむしが自然界の秩序を保つ?―

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