岡山大学の研究チームは、食塩を構成する成分の1つである塩化物イオンが、甘味やうま味の受容体に作用することを発見しました。
この研究成果は2月28日にアメリカの科学雑誌『eLife』に掲載されています。
基本的な味は5つ、それぞれの味覚受容体で味を感知する
私たちは甘味、うま味、塩味、苦味、酸味を識別することができ、これらは基本五味と呼ばれています。
それぞれの味は、舌の味蕾(みらい)にある味覚受容体にある”ポケット”と、ぴったり合う特定の物質と結合したときに、それぞれの味を感知します。
例えば、甘い味は砂糖が甘味受容体にあるポケットと結合することによって感知され、塩味はナトリウムイオンが塩味受容体にあるポケットと結合することによって感知されます。
塩化物イオンは甘味受容体やうまみ受容体にも結合できる
あるとき、岡山大学の研究チームがメダカが持つ味覚受容体の解析を行っていたところ、本来はアミノ酸が結合するはずのポケットの近くに、何らかの別のポケットがあり、未知の物質と結合しているのを発見しました。
このポケット部分を兵庫県佐用街にあるシンクロトロン放射光施設・SPring-8と茨城県つくば市にあるPhoton Factoryで解析を行ったところ、このポケットに結合しているのは塩化物イオンであることが明らかになりました。
この結合ポケットは私たちヒトにも存在するもので、メダカの受容体タンパク質やマウスの味神経などを使ってさらに詳しく調べたところ、塩化物イオンは甘味受容体やうま味受容体に結合して甘味やうま味を引き起こすことが明らかになりました。
薄い食塩は甘味やうま味を引き起こす
実は、味噌汁などの塩分濃度である0.8%~1%では私たちはしっかり塩味を感知できるのに、10~20倍に薄めると甘く感じるという現象がいまから60年前の心理学研究論文でもすでに報告されていました。
どうやら、食塩の塩化物イオンは私たちの甘味受容体やうま味受容体に結合して本当に甘味やうま味を作り出しているようです。
研究チームによると、この甘さはショ糖などが引き起こす味覚と比べて弱く、食塩濃度が高くなると塩味の方を強く感じてしまうため甘味がわからなくなるのだそう。
マウスを使った実験では、塩味がわからないほどの塩分濃度であってもマウスたちは何も含まれていない水よりも薄い塩化物イオンが含まれた水を好んで飲んでいたそうで、このわずかな甘さには生物学的に何らかの意義があるのかもしれません。