福岡歯科大学と東京医科歯科大学の研究チームは、歯の咬み合わせがいつまでも合わない違和感が続く人では脳活動パターンに微妙な乱れが生じていることを明らかにしました。
歯並びの矯正や義歯の治療の後、歯の咬み合わせにずっと強い違和感(咬合異常感:こうごういじょうかん)があり、歯科医院で何度調整を繰り返しても改善しない症状はファントム・バイト・シンドローム(Phantom bite syndrome:PBS)と呼ばれています。
患者にとっては何度治療をしてもうまくいかないので治療費がかさみ、やがて治療が上手な歯科医師を求めて歯科医院を転々とする「ドクターショッピング」に陥ります。
また、歯科医師にとっても何度施術を行っても満足してもらえないため、しばしば真面目・親切な歯科医師は再治療にかかる正規の治療費を請求することなく、繰り返される患者の要求に応えようとして追い込まれていきます。
福岡歯科大学と東京医科歯科大学の研究チームは、PBS患者44名を対象に放射線同位体元素を利用した標識製剤を使い、脳のさまざまな部位における血流を調べる「脳血流SPECT検査」を行い、12名の健常者と比較を行いました。
その結果、明らかな差はみられなかったものの、併存している精神疾患を考慮した場合では、左側の噛み合わせに違和感がある患者はうつ病を患っている人が多いことが分かりました。
研究者らは別のアプローチとして、違和感のある歯の位置によって患者を右側、左側、両側の3グループに分類して脳活動の状態を比較しました。
その結果、なんと違和感がある歯と同側にある頭頂葉の活動、そして違和感がある歯と反対側にある視床の活動が有意に増加していることが明らかになりました。
どうやら、ファントム・バイト・シンドロームは単に神経質であったり気にしすぎといったものではなく、歯の部位に応じて脳活動の微妙なアンバランスが生じており、歯の形やその咬み合わせよりも「脳のシステムエラー」によって違和感を生じているのかもしれません。