兵庫県立大学をはじめとする研究者らはこのほど、アリそっくりに擬態したアリグモが、擬態によって跳躍力や獲物の捕獲能力を低下させていることを明らかにしました。
アリそっくりなアリグモ
アリグモはハエトリグモ科に属する徘徊性のクモ類で、日本で6種、東南アジアの熱帯地域で約120種、世界中では200種以上が確認されています。
アリグモはその名が示す通りアリそっくりに擬態しています。アリ類は強力な大アゴや毒針を持ち、敵に対して集団で攻撃行動をとるため生まれつきアリを嫌うような生き物も多く、アリグモはアリに姿を似せることで捕食者などから身を守っていると考えられています。
実際に、カマキリはガラス板越しにアリのシルエットを見せただけで逃げ出すことが確認されています。
昆虫とクモ類では体のつくりが全く異なっていますが、アリグモではアリによく似せるために、頭部・胸部・腹部の区別がはっきり分かるように”くびれ”を作っており、さらに全体的に細長い体型となっています。
ジャンプがあまり得意じゃないのは擬態のせい?
クモ類は脚に大きな伸筋を持っておらず、跳躍して獲物を捕らえる際には頭胸部で体液を圧縮し、それを脚に押し出すことで脚力を生み出していることが古くから知られていました。
兵庫県立大学の橋本 佳明 准教授は、アリグモがこうした跳躍を苦手とするのは、体型をアリに似せ過ぎてしまったからではないかと考えました。
@Anthunter1212 ハエトリグモが、まるまるした形しているのも、アリグモが跳躍苦手なのも、わかった気がする。さて、どうやって、計測、データ化するか。
— Yoshiaki Hashimoto (@Anthunter1212) November 22, 2014
橋本准教授らはマレーシア領ボルネオ島やタイ国に生息するアリグモ属7種86個体と、アリに擬態していないハエトリグモ類12属70個体を採集し、ビデオカメラで記録しながらそれぞれの跳躍距離や獲物の捕食成功率を測定しました。
その結果、アリに擬態していないハエトリグモでは体長の3倍ほどの距離を跳躍できたのに対し、アリグモ属7種では最大でも体長と同じくらいの距離しか跳躍できず、なかにはほとんど跳躍できない種も確認されたといいます。また、これらのアリグモの捕獲成功率は大きく低下していました。
どうやら、アリへの擬態は高い防衛効果をもたす反面、同時に捕獲能力を低下させるといった大きな不利益をもたらしているようです。
細長いアリに擬態したアリグモほど能力が低下していた
アリ類の多様性が高い熱帯のアリグモは、特定のアリ種に対応するように1対1で擬態関係を持っており、擬態するアリの種類によってさまざまな体型をしています。
研究者らが解析を行ったところ、細長くくびれた体型を持つアリに擬態しているアリグモほど、跳躍距離や捕獲成功率が低下しており、擬態したアリの種類によって能力低下の度合いが異なっていました。
なぜ、わざわざ著しく能力が低下してしまうようなアリ種を選んで擬態するアリグモがいるのでしょうか。橋本准教授らは今後さらに研究を進め、熱帯のアリグモにおける多様性の謎を解き明かしていく方針です。
OGP photo by ひとはくの研究 – 兵庫県立 人と自然の博物館