お米を炊いたものを指す言葉「ご飯」には、”食事”という意味もあるように、ご飯は私たち日本の食卓には欠かせないものです。品種改良から炊き方まで、私たちは古来よりおいしいご飯を食べるために、飽くなき情熱を注いできました。それは現代でも変わりません。
では、”おいしいご飯”とは一体どのようなものでしょうか?
一般的に、ご飯のおいしさは外観、香り、味、粘り、硬さの5つに分けて評価を行います。
これまでは数十人の試験者が基準米と比較しながら実際にごはんを食べて評価していましたが、試験者の出身地域や個人的な好み、体調や気分でも結果が変動してしまうことが大きな問題とされてきました。
より客観的、そして正確にご飯のおいしさを評価するために、近年では専用の機械を使った測定も行われていますが、「炊き立てのご飯の香り」だけは、評価すべき香り成分がよく分かっておらず、正確な測定が困難でした。
そこで福井大学と福井県農場試験場の研究者らは、福井県の新しいブランド米である「いちほまれ」に、SPMEファイバーという棒状の試験片を5分間かざして香り成分を吸着させ、ガスクロマトグラフで成分を分離させてから、266nmのレーザー光でイオン化させてご飯の香り成分の検出・同定を試みました。
その結果、ご飯のおもな香り成分は4-ビニルフェノールとインドールであることが明らかになりました。
『Using SPME-GC/REMPI-TOFMS to Measure the Volatile Odor-Active Compounds in Freshly Cooked Rice』より
4-ビニルフェノールはワインやビールなどに含まれる香り成分で、子ども用の風邪シロップのような甘い香りがします。
インドールは香水としてよく利用される香り成分で、興味深いことに低濃度ではジャスミンやオレンジの香りがしますが、高濃度では防虫剤や便のような臭いになります。
この2つの香り成分についてさらに詳しく調べた結果、炊飯器で保温するとインドールが急速に減少することが分かりました。また、収穫から半年~1年ほど経過したお米を炊飯した場合、4-ビニルフェノール量に変化はみられないものの、インドールの量は明らかに減少していました。どうやら、インドールはお米の”鮮度”と関連のある成分のようです。
今回の研究では福井県のブランド米「いちほまれ」のみで行われましたが、研究者らは今後、他の品種との比較を行ってごはんの香りについての理解をさらに深め、消費者の好みに合うお米の提案や、地域農業の発展に貢献したいとコメントしています。