車に踏まれても潰れないという、異常なまでの強度を持った昆虫「コブゴミムシダマシ」の秘密が、カリフォルニア大学と東京農工大学の合同研究チームにより明らかになりました。
コブゴミムシダマシ(Phloeodes diabolicus)はおもに北米・西海岸のナラの木に生息する体長約3cmの小さな昆虫です。
Youtube channel”Learning from Nature” 『Compression Resistant Ironclad Beetle』より
この昆虫は飛ぶことはできませんが、かわりに翅(はね)が変化して硬くなった鞘翅(しょうし)を有しており、最大で体重の約3万9,000倍、実に149ニュートンもの力にも耐えることができます。これは、近縁種の昆虫の2倍以上に相当します。
コブゴミムシダマシのこの特殊な外骨格はあらゆる捕食者の押しつぶす攻撃やかみ砕く攻撃に耐え、なんと車に踏まれても潰れることはありません。
▽カリフォルニア大学による検証動画。
“Ironclad beetle”(鋼鉄で武装した甲虫)の異名を持つコブゴミムシダマシの、この異常な強度はどのようにして作られているのか――カリフォルニア大学と東京農工大学の研究チームは、コブゴミムシダマシの外骨格のミクロ構造と構成成分の詳細な解析を行いました。
一般に甲虫の表皮はキチンとタンパク質から構成される繊維の束が積み重なることで、規則的な層状の構造になっています。
東京農工大学 2020年度プレスリリース一覧より
コブゴミムシダマシ(A)と、走査型電子顕微鏡で外骨格断面を観察した様子(B)。
研究者らが外骨格の破壊実験を行ったところ、やはりこの構造がコブゴミムシダマシの強度に大きく寄与していることが明らかになりました。
東京農工大学 2020年度プレスリリース一覧より
光学顕微鏡で外骨格接合部断面を観察した様子。外骨格はパズルのピースのように凹凸部分で接合している。
興味深いのは外骨格の接合部分で、パズルのピースのようにかみ合っている凹凸の接合部分は、他の甲虫種では1対であるのに対し、コブゴミムシダマシは2対あることが確認されました。
また、研究チームが外骨格の成分を解析したところ、ニホンカブトムシと比べてタンパク質の割合が約10%も多く含まれていることが明らかになりました。どうやら、今回の研究で明らかになったコブゴミムシダマシの特殊な構造は、タンパク質が大きく関与しているようです。
▽コブゴミムシダマシの外骨格CTスキャン映像
コブゴミムシダマシを「模倣」して高強度の接合材料を作る
例えばプラスチックと金属など、異なる種類の材料をつなぎ合わせる「異種材料接合」の技術は、飛行機やロケットなどの航空宇宙産業においては特に重要なものです。
研究チームは今回の研究成果をもとに、コブゴミムシダマシの外骨格接合部にみられる2対の凹凸構造を利用し、異なる種類の材料をつなぎ合わせて材料を作製し、その有効性について評価しました。
その結果、作製した材料は現在利用されている接合材と比較して強度が向上し、靭性(じんせい:材料の粘り強さのこと)も著しく高いことが明らかになりました。
生物が持つ構造や機能を模倣する技術はバイオミメティクスと呼ばれていますが、異常なほどの強度を有するこのコブゴミムシダマシは、研究者らにとってまさにうってつけの研究対象でした。
今回の研究では強度に関わる構造だけでなく、乾燥環境下での水分の輸送や蓄積、エネルギー吸収に関わる構造も発見されており、研究者らは今後、さらにミクロ構造を解析することによって、さまざまな機能を持った材料を開発できるのではないかと考えています。
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