最初の発見者は、まさかこれが鉱物の一種であるとは思いもしなかっただろう――
オーケン石とも呼ばれるこのオケナイト(化学式:CaSi2O5·2H2O)は1828年、グリーンランドのディスコ島ではじめて発見された。繊維状の結晶が放射状に発達し、まるで鉱物とは思えないような白くふわふわした見た目からラビットテールとも呼ばれることもある。
Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0 / CC BY-SA
インドのデカン高原やニュージーランドのアランガ、アゼルバイジャンのブラ島などで産出されており、内部が空洞になった晶洞(ジオード)の内部で、ゼオライトやアポフィライトなどと一緒に見つかることが多い。状態が良いものはまるで菌類か、あるいは丸まった小動物のように感じるものがあり、その”愛らしさ”がコレクターから重宝されている。
オケナイトは晶洞のなかから見つかる
Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0 / CC BY-SA
晶洞は、例えばマグマの気泡があった部分や、地殻活動でできた亀裂などの空洞だ。一般には手のひらに収まるほどの小さな塊(いわゆるガマ)として産出されるが、なかにはスペイン南部アルメリア県にあるプルピ晶洞のような、まるで洞窟のような大きさの晶洞も存在する。
参考記事
メキシコのナイカ鉱山にある巨大結晶の洞窟。生成過程は同じだが、晶洞とは異なる。
晶洞内の空間には熱水が浸透し、溶けていた成分が結晶化することがある。晶洞の中がどのようになっているかは、割ってからのお楽しみだ。
James St. John / CC BY
アメジストの晶洞。
Didier Descouens / CC BY-SA
こちらがオケナイトの晶洞。内部を覆いつくしているか、どれだけよく発達しているか、あるいはどのような鉱物と一緒に見つかるのか――好みが分かれるところだ。
オケナイトの名前の由来
オケナイト(okenite)という名前は、ドイツの博物学者であるローレンツ・オーケン(Lorenz Oken)にちなんでいる。オーケンは優れた研究者であり、1838年・1839年に細胞説を唱えたシュライデンやシュワンに先駆けて1805年の著書『生殖』に「すべての生物は細胞から生まれ、細胞から成り立つ」と提唱した人物で、細胞説の確立に貢献した。また、世界初の生物学雑誌「イージス」を創刊したり、形式的な科学者会議を創設するなど、科学の発展にも大きく尽力している。
彼の研究は多岐に渡っており、その功績は随所にみられる。例えばチンパンジーの属名である「Pan」は、オーケンがギリシャ神話の牧神「パーン」にちなんで名づけたものだ。ちなみに、オケナイトは当初はオッケンナイト(ockenite)と呼ばれていたそうだが、のちに省略された。
Rob Lavinsky, iRocks.com – CC-BY-SA-3.0 / CC BY-SA
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オケナイトは触っても大丈夫?
触った時の感触はよくビロードに例えられる。このオケナイトを直接触っている撮影者の指が、わずかにキラキラしていることからも分かる通り、この繊維状の結晶は壊れやすく、何度も触ってしまうと”毛”がすぐに潰れてしまうという。さらに汚れなどを吸着しやすい性質ため、管理や扱いには十分に注意しなければならない。
パワーストーンとしても人気のオケナイト
パワーストーンとしても重宝されており、癒しや共感、優しさなどをもたらすという。言うまでもなく、ふわふわとした可愛らしいこの鉱物を見れば、誰もが穏やかな気持ちになるのは間違いないだろう。
色は白だけでなく、わずかに黄色や青みを帯びたオケナイトが産出されることがあるという。ただし、しばしば市場でみられるカラフルな色のオケナイトは人工的に染色されたものである可能性が高いため注意が必要だ。
No machine-readable author provided. Kluka assumed (based on copyright claims). / CC BY-SA
No machine-readable author provided. Kluka assumed (based on copyright claims). / CC BY-SA
人工的に着色されたオケナイト。
オケナイトはどこで入手できるのか?
オケナイトは鉱物などを扱う通販サイトや、オークション、フリマアプリなどを通じて、2000円~1万円以下で入手することができる。産地や結晶の発達具合によって見た目が大きく変わるため、あなた好みのオケナイトが見つかるまで時間をかけることをおすすめする。ただし上記でも説明してある通り、可愛いからといってあまり触り過ぎないように。
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