石川県ふれあい昆虫館の研究者らは、日本に生息するアメンボの一種が交尾相手の確保のため、まだ幼虫のメスをオスが保護することを発見しました。
交尾の前後にパートナーを守る行動は珍しくない
交尾の前後でパートナーを守る行動は、昆虫や甲殻類ではよく知られています。
例えばタカアシガニなどは、メスが脱皮した直後の柔らかいときでしか交尾できないため、オスは交尾できるようになるまで他のオスに取られないようにガードします。
また、ノコギリクワガタは交尾後もメスに覆い被さり、メスが餌場から離れるまで他のオスを寄せ付けません(メイトガード)。
カタビロアメンボ科のアメンボはメスが幼虫のときから守る
なかでも、カタビロアメンボ科に属する昆虫には、メスがまだ幼虫のときからオスが上に乗り、メスが羽化して交尾できるようになるまで待つという珍しい繁殖戦略を持つことで知られています。
カタビロアメンボ科は私たちがよく想像するような、水面を走り回る小型のアメンボの仲間で、これまで全世界に約1,000種が知られていますが、メスが幼虫のときからオスが保護する行動が知られているのは3種だけでした。
イリオモテケシカタビロアメンボが幼虫のときからメスを守ることを発見
石川ふれあい昆虫館の渡部晃平学芸員をはじめとする研究チームは、カタビロアメンボ科のイリオモテケシカタビロアメンボのオスがどういった”好み”を持つか調べるため、成体のオスと成長段階が異なる3タイプの未交尾のメスを1匹ずつ入れ、オスがどのメスを選ぶのか調べました。以下は容器内の状況です。
- ・未交尾のオス
- ・5齢幼虫のメス
- ・羽化してから24時間後の未交尾メス
- ・羽化してから3日以上経過した未交尾メス
観察の結果、80%のオスが羽化してから3日以上経過したメスを選んでいました。
一方で、研究者らはオスとメスの幼虫のみを同じ容器に入れた場合に、どのような結果になるか観察したところ、実に79.6%のオスがメスの幼虫の上に乗り、保護行動を開始したといいます。
幼虫のメスに乗り警護行動をとるオス。イリオモテケシカタビロアメンボはオスよりもメスの方が大きい「性的二型」です。
石川県ふれあい昆虫館のプレスリリースより
どうやら、イリオモテケシカタビロアメンボは基本的に交尾可能な成熟したメスを好みますが、他のメスがいないなど、やむを得ない場合はメスの幼虫を守る行動を取って交尾を待つようです。
メスの幼虫を相手にするのは大きなリスク
この実験では幼虫が羽化するまで3日間も幼虫に乗り続けるなど、多くのオスが交尾までの間にかなりの時間とエネルギーを消耗し続けました。
なかには、幼虫が羽化したことにも気付かず、脱皮殻に乗り続けたために交尾に失敗したオスもいたといいます。
また、乗る時間が多いほどそれだけ目立ち、天敵に襲われやすくなるといったデメリットも大きいため、研究者らは今後さらにメスをめぐるオス同士の競争関係なども絡めて詳しく明らかにしていく方針です。
この研究成果は昆虫行動生態学の国際誌である「Journal of Insect Behavior」に掲載されています。
Reference
イリオモテケシカタビロアメンボのオスは交尾相手を確保するためにメスが幼虫の時から保護することを発見 -石川ふれあい昆虫館-