Louvre flickr photo by hernanpba shared under a Creative Commons (BY-SA) license
いわずと知れた”芸術の都”であるフランスの首都パリ。そこには、パリを”芸術の都”たらしめるような美術館がいくつか存在しているが、なかでもルーヴル美術館は来館者数世界第一位を誇る屈指の美術館だ。紀元前7,000年前のものから1850年代のものまで38万点以上もの芸術品が収蔵されており、そのなかには世界で最も有名な絵画であるレオナルド・ダ・ヴィンチのモナ・リザや、ミロのヴィーナス、サモトラケのニケなど、世界有数の芸術作品も数多く含まれている。
このルーヴル美術館の歴史は、今から800年も前に遡る。このルーブル美術館の建物はもともと、1190年頃にフランス王のフィリップ2世がパリ防衛のために要塞として建設した”ルーヴル城”であり、その後は歴代フランス王が住む王宮”ルーヴル宮殿”として利用されていたものだ。
これまで、あらゆる権力の中枢であり、フランスの歴史が繰り広げられてきたこの建物は、さまざまな時代の優れた建築家たちが、改築・増築を手掛けた建築史そのものであり、建物自体が至上の芸術作品といえるだろう。
ナポレオン広場にあるルーヴル・ピラミッド
このルーヴル美術館において最後に建設が行われたのは1989年、今やルーヴル美術館の象徴となっている巨大なガラスのピラミッド「ルーヴル・ピラミッド」だ。
Pyramid at Louvre Mu flickr photo by apple.white2010 shared under a Creative Commons (BY) license
「ナポレオンの中庭」にあるこのルーヴル・ピラミッドは、1981年にフランスの大統領フランソワ・ミッテラン(François Mitterrand)がフランス革命200年を記念して、パリの都市改造計画「Grands Projets(グラン・プロジェ)」が打ち出された一環で中国系アメリカ人の建築家イオ・ミン・ペイ(Ieoh Ming Pei)氏により建設されたものだ。計画当初は、歴史的な建造物であるルーヴル宮殿の近くに、このような近未来的なデザインの芸術作品を作るべきではないという論争が巻き起こっていた。当時は、なんとパリ住民の90%もの人々がこのピラミッドの建設計画に反対しているとまで言われていたという。
ルーヴル・ピラミッドのガラスの枚数は666枚?
このルーヴル・ピラミッドについて、ある噂がまことしやかに囁かれている。それは、このルーヴル・ピラミッドに使用されているガラスの枚数が666枚であるというのだ。この「666」という数字は『新約聖書』のヨハネの黙示録に登場する”獣の数字”と呼ばれるもので、しばしば悪魔崇拝や反キリスト的な意味合いと結び付けられる。
だが、これは誤りだ。これが本当かどうか、実際にガラスの枚数を計算して確かめてみよう。
・ルーヴル・ピラミッドは四角錐の構造で、4面からなる。
・1つの面には底辺にのみ三角形のガラスが18枚あり、残りはすべてひし形のガラスで構成されている。
・ひし形のガラスは三角形の1辺に17枚ずつ並んでいる。
・ただし、ルーヴルピラミッドの正面のみ、ガラスが11枚少ない。
ルーヴル・ピラミッドのガラスの枚数を計算する
ひし形のガラスの枚数は、次のようにもう1面と組み合わせて平行四辺形にすると計算しやすい。
2つの面を組み合わせてできたガラスの枚数は17×18=306、これを半分にして元に戻すとひし形のガラスの枚数は153枚であることが分かる。三角形のガラスの枚数が18枚なので、これも合わせると1面分のガラスの枚数は171枚だ。
1面171枚のガラスが4面分あるため171×4=684枚だが、ルーヴル・ピラミッドの正面側のみ11枚だけ少ないため、合計は673枚ということになる。確かに、666という数字には近いが、間違いであることは明らかなようだ。
どうやら、この噂はルーヴル・ピラミッドの計画当初から存在していたようだが、もちろん大きな話題になることはなかった。だが、この噂を”世界的に”広めるような大きな出来事があった。2003年に出版され、全世界で2億部を超える大ヒット作となったダン・ブラウン氏の『ダ・ヴィンチ・コード』の一説に、「ルーヴル・ピラミッドのガラスの枚数はフランソワ・ミッテラン大統領の指示によって正確に666枚になるように作られた」と書かれていたのだ。
『ダ・ヴィンチ・コード』を読んだことのある人は、もしかしたら今も間違って覚えているかもしれない。ともあれ、ガラスの枚数である673という素数であることは、なにか意図的な”美しさ”を感じざるを得ない。
Louvre at night flickr photo by VinayakH shared under a Creative Commons (BY-SA) license
ルーヴル・ピラミッドのライトアップは非常に美しい。”芸術の都”と呼ばれるパリは、同時に”光の都”とも呼ばれているが、まさにルーヴル美術館はそれを実感できるスポットの一つだ。ただでさえ美しいルーヴル宮殿の近くに、非現実的な雰囲気のピラミッドがそびえ、それらが大きな噴水の水面に浮かび上がるのだ。パリへ行くなら、そしてルーヴル美術館に行くなら、この夜のライトアップをぜひ大切な人と見て頂きたいものだ。
周辺施設にはルーヴル・逆ピラミッドも
都合が合わなくて、もし夜に来れなかったとしてもそれほど残念に思うことはない。ルーヴル美術館に隣接するショッピングセンター「カルーゼル・デュ・ルーブル(Carrousel du Louvre)」にはガラスでできた逆さまのピラミッド、通称「ルーヴル・逆ピラミッド」がある。
1993年にできたこのピラミッドは空からの光を取り入れる採光窓の役目を果たしており、ピラミッドから透かして見える空、そして空がフロアに反射してなんとも美しい光景を作り上げる。もし条件が良ければ、ガラスがプリズムの役割を果たして床に大きな虹が映し出されるのだ。これは昼にしか見ることができないため、夜のライトアップを見れないならぜひ、こちらのルーヴル・逆ピラミッドを見に行こう。
このルーヴル・ピラミッドは完成から30年も経過しているが、現在においてもそのユニークなデザインは見る者を魅了する。だが、ルーヴル城からはじまる数百年もの建築史において、ルーヴル・ピラミッドは に過ぎないのだろう――これからもパリの街、そしてルーヴルは変わらず”変わり続ける”だろう。