「数字の”1”は黄色い感じがする――」
「アルファベットの”B”はなんとなく緑色っぽい――」
このように、特定の文字について何らかの色のイメージを持っている人は少なくないでしょう。しかし、ごく一部の人は本当に文字に色がついて見えるといいます――
共感覚の一種である「色字共感覚」と呼ばれるこの知覚に関わる現象は、全人口の1~2%の人にみられます。
この色字共感覚を持つ人々はなんと、数字やアルファベット、漢字やカタカナなどの文字に特定の色を感じることができます。
近年まで、この色字共感覚現象は非科学的な主張だとして相手にされませんでしたが、本当に文字に色がついて見えているとしか考えられないさまざまな例が数多く報告され、次第に受け入れられるようになりました。
あなたにも共感覚がある?テストですぐに分かります
次の図をよく見てみましょう。
この図では、「5」の文字がたくさんあるのがよく分かるかと思いますが、さらに「5」の文字に混ざって、「2」の文字が混ざっているのが分かりになりますでしょうか?
「5」と「2」のそれぞれの区別は簡単ですが、このように集まると一気に判断が難しくなります。では一体、どのくらいの「2」が混ざっているのでしょうか?
正解はこちらです。
「2」の文字が赤色に見える色字共感覚の持ち主は、実はこのように2がいくつあるかだけでなく、それが三角を描いていることも分かるのです。
この図よりさらに判断が難しい複雑な図でテストを行っても、色字共感覚を持つ人々は文字に色がついている場合と同じ正答率で答えることができるといいます。
さらに、研究者らは「5」が赤く見えるとある色字共感覚の持ち主に、わずかに赤く着色された「5」を見せ、その被験者が気付くまで色を濃くしていきました。
結局、色字共感覚を持つ人では「5」がかなり濃い赤になるまで気付きませんでしたが、今度は「5」をわずかに緑にしていく場合ではすぐに色の変化に気付きました。
この被験者にとって「5」は赤く見えるため、赤色の変化は分かりづらく、一方で他の色の変化にはすぐに気が付くことができます。
色字共感覚はなぜ起きるのか?
数字に色がついて見える色字感覚者では、数字を処理するための脳の領域が活性化すると、同時に色を処理するための脳の領域が活性化することが核磁気共鳴画像法(fMRI)による解析でも明らかになっています。
通常、数字を処理する脳の領域と、色を処理する脳の領域は連絡していませんが、どうやら色字共感覚の人々ではこれらが結び付き、相互に活性化して処理が行われているようなのです。
他の共感覚現象、例えば音や味に色を感じる場合でも、同様の現象が脳内で起きているという。
共感覚を持つ人が感じる色は基本的に変わることはない
色字共感覚における大きな特徴として、文字の色が将来的にずっと変わらないことが挙げられます。
ある特定の文字に対して、何らかの色が感じられる場合、その文字を何度、そしていつ提示しても、色字共感覚を持つ人ではその答えは基本的に変わることはありません。
極端な例では、ひらがなやカタカナ、漢字や数字だけでなく、見たことのない外国の文字であっても、その文字に対応する色を即答することができ、何度出題しても、何年前であっても前回の答えと全く同じ色を解答することができます。
また、見える色は文字の「意味」や「読み方」に対応していることが多いようです。
例えば、ひらがなの「あ」と、カタカナの「ア」のように同じ意味や読み方をする場合では、同じ色になりやすいことが研究により明らかになっています。
特に日本人における色字共感覚の持ち主では、ひらがなとカタカナの同じ文字はほぼ100%一致した色になっていました。
しかしながら、もし文字の「意味」や「読み方」が変化したとしたら、文字の色はどうなってしまうのだろうか?
立教大学現代心理学部と東京大学大学院人文社会系研究科の共同研究は、これを確かめるために、漢字に対して色字共感覚を持つ人々に、新しい読み方と新しい意味を覚えてもらいました。
例えば、「祖」という漢字の読みは、日本語では”ソ”ですが、中国語では”ヅゥウ(zǔ)”と発音します。
また、「坊」という漢字は日本語ではおもに「小さい子供」や「お坊さん」を意味しますが、中国語ではおもに「街」を意味する漢字です。
実験ではまず、色字共感覚を持つ被験者にはあらかじめ約1667万色のパレットから漢字に対応する色を選択してもらい、上記のような新しい意味や読み方を30分ほど暗記学習してもらい、その後再び漢字の色を選んでもらい、色がどのように変化したのかを数値として集計しました。
その結果、新しく学習しなかった漢字には色の変化は見られませんでしたが、新しい読みや意味を学習した漢字では、不変とされていた文字の色が変化することが初めて明らかになった。
この論文は2019年10月21日付で『Philosophical Transactions of the Royal Society B』にオンライン掲載されています。
色字共感覚をはじめとする共感覚現象は、未だによく分かっていないことが多く、例えばごく一部の色字共感覚者では、文字に色だけでなく、触感や風景、味や匂いを感じたり、まるで人であるかのように、文字に対応した性格や感情を持っていると感じることができるといいます。
『ぼくには数字が風景に見える』の著者であり、有名なサヴァン症候群の人物であるダニエル・タメットは、1から10,000までの数字にはそれぞれ形や色、手触り、感情があるといい、ダニエルさんは計算せずに素数を見抜いたり、暗算が難しい計算でもそれぞれの数が作り出す形の組み合わせによって、瞬時に行うことができるといいます。
もしかしたら、今後の研究によって、私たちの知られざる脳の可能性が明らかになるかもしれません。
この記事のまとめ
- 色に文字がついて見える人は、全人口の1~2%にみられます。
- こうした人の存在は初めは信じられていませんでしたが、文字に色がついていないと説明がつかない報告が次々と見つかったので徐々に信じられるようになりました。
- 文字に対する色のイメージは基本的に変わることはありません。どんな文字でも、何年後に聞いても同じ色を答えます。
- ただし、文字の新しい意味や読み方を覚えることで文字の色が変化することが最近の研究により明らかになりました。
- 極端な例では、文字に色だけでなく触感や風景、味や匂いを感じたり、性格や感情を持っているとさえ主張することがあります。
- 数字の共感覚を持つ人は、ときに普通の人では行えないような複雑な計算を瞬時に行うことができます。
Reference
色字共感覚の色は文字についての知識を反映している -東京大学-