神戸大学をはじめとする国際研究チームはこのほど、ハリガネムシがカマキリを操り、水に飛び込ませるメカニズムの一端を解明することに成功しました。
ハリガネムシはカマキリやカマドウマなどに寄生し、成虫になると宿主を操って水に飛び込ませることが100年前から知られていましたが、どのようにして水辺を感知し、水に飛び込ませるのかについてはこれまでよく分かっていませんでした。
これまでの仮説では、水面が反射する光におびき寄せられて水に飛び込むのではないかと考えられてきましたが、光を反射するものは水面以外にも砂や草など自然界には多く存在します。そうした明るい場所にいちいち誘われては、宿主をうまく水に誘導させることはできません。
Youtube 「ハリガネムシは寄生したカマキリを操作し水平偏光に引き寄せて水に飛び込ませる」
そこで研究者らは光の性質に注目しました。
太陽から放射される光は振動方向に偏りのない「非偏光」ですが、水面などに反射すると振動方向に偏りのある「偏光」が含まれるようになります。
Youtube 「ハリガネムシは寄生したカマキリを操作し水平偏光に引き寄せて水に飛び込ませる」
特に、太陽光が水面により反射すると振動面が水平の「水平偏光」がよく反射されます。この水平偏光は、近年の研究により一部の昆虫や鳥類が水辺を探したり避けたりする際に利用していることが報告されており、ハリガネムシに寄生されたカマキリもこの水平偏光を感知して水に飛び込んでいるのかもしれません。
神戸大学らの国際研究チームはこの仮説を検証するために、筒状の容器内で一方からは水平偏光を、もう一方から非偏光を照射してハリガネムシが寄生したカマキリとそうでないカマキリがそれぞれ10分後にどちらの方におびき寄せられているかを調べました。
その結果、ハリガネムシに寄生されているカマキリでは高い割合で水平偏光を照射した側に誘引されていました。
また、照射する光を「水平偏光」から振動面が垂直の「垂直偏光」に変更した場合では、このような傾向はみられませんでした。
研究者らはさらに、ビニールハウス内に水平偏光を強く反射する池と水平偏光をあまり反射しない池を作り、実際の自然環境に近い状況でハリガネムシに寄生されたカマキリがどちらの池に飛び込むかを調べました。
左側が水平偏光を強く反射する池、右側が水平偏光をあまり反射しない池。
水平偏光は水深が深くて底面が暗いほど多くなります。
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実験の結果、16個体が池に飛び込み、うち14個体は水平偏光を強く反射する池に飛び込んでいました。やはり、ハリガネムシに寄生されたカマキリは水平偏光を感知して水に飛び込んでいるようです。
研究者らは今後、カマキリはどのようにして水平偏光を感知しているのか、そしてハリガネムシはどのようにしてその仕組みを利用しているのかについて明らかにしていく方針です。
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