北海道大学をはじめとする共同研究チームはこのほど、魚をふ化させて放流する取り組みについて、放流し過ぎると逆効果になることを明らかにしました。
飼育した生物を野外に放す取り組みはさまざまな動物で行われています。しかし、生態系は絶妙なバランスにより成り立っており、短期的には個体数は増えても、長期的にはどのような影響があるかについてはこれまで分かっていませんでした。
そこで北海道大学大学院地球環境科学研究院とノースカロライナ大学グリーンズボロ校、国立極地研究所の合同研究チームはシミュレーションによる理論分析と、実際の観測データをもとにした実証分析の両方から検証を行いました。
理論分析の結果
理論分析では放流する魚1種とその他9種の合計10種を想定し、放流する魚がどのような特性を持つか、どのような場所で放流されるかなど32パターンのシナリオが準備されました。
シミュレーションの結果、ほとんどのシナリオで放流された魚は仲間同士の競争が激しくなり、放流が多すぎるとこの種内競争によって自然繁殖が抑制されていました。また、他の種に対して悪影響を及ぼすことが示されたといいます。
放流を行うことで個体数が増えていたのは種内競争が弱く、放流する場所に無理がない(環境収容力が十分にある)場合だけでした。
実証分析の結果
1999年~2019年までの20年間に北海道全域の保護水面河川では毎年0~24万匹ものサクラマスが放流されており、このデータをもとに統計モデルを使ってどのような影響があるかを調べました。
その結果、サクラマスの放流が大規模に行われている河川ほど、逆にサクラマスと他の種類の魚の密度が低下しており、結果的に魚類群集全体の密度や種数が低下することが明らかになったといいます。
この記事のまとめ
- 過剰な放流は、長期的にみると放流した種が増えないだけでなく、他の種も減ってしまう。
- 放流の効果があるのは仲間同士の競争が少なく、たくさんの個体が生息できる十分な環境がある場合のみ。