害虫のカタツムリがコーヒー絶滅の危機を救う可能性、ミシガン大学

害虫のカタツムリがコーヒー絶滅の危機を救う可能性
Smartse / CC BY-SA

コーヒーは今、絶滅の危機に瀕している。というのも、それはコーヒーの野生種だ。イギリスのキュー王立植物園の2019年の報告によると、コーヒーの野生種124種のうち22種が危急種、40種が絶滅危惧種、13種が絶滅寸前にまで追い込まれているという。世界的なコーヒーの需要は高まっているが、上質な味わいを生むために必要不可欠な野生種は存亡の機に直面しており、コーヒーの多様性は失われつつあるのだ。

参考記事

猛威を振るうコーヒーさび病

その大きな原因となっているのはコーヒーさび病だ。大規模な気候変動により、コーヒー栽培地における平均気温は徐々に上昇し続けており、それに伴ってコーヒーさび病が広範囲に、そして高地に広がりつつあるのだ。

コーヒーさび病を引き起こすコーヒーさび菌(Hemileia vastatrix)は、葉の気孔から侵入してあっという間に葉を枯らしてしまう。葉の無くなったコーヒーの木は光合成を行うことができず、すぐに朽ち果ててしまうのだ。枯れ落ちた葉からはコーヒーさび菌の胞子が大量に放出され、すぐに栽培地全体へと広がっていく――

もはや”手遅れ”とすら指摘されているこの状況に、希望をもたらすような発見があった。アメリカ・ミシガン大学アナーバー校の研究者らが、ある種のカタツムリがコーヒーさび病の病変部分のみを食べることを発見したのだ。

2016年、ミシガン大学の研究者らとその学生は、コーヒーの木があるプエルトリコの山脈に調査に訪れていた。彼らがそこで見つけたのは、コーヒーの葉についていたオレンジ色のフンだ。カタツムリは食べたものによってフンの色が明確に変化するが、これがコーヒーさび病の病変部の色と全く同じであることに気付いたのだ。

このフンの”落とし主”は、コーヒーの葉でよく見つかるオナジマイマイ(Bulimulus guadalupensis)と呼ばれるカタツムリの仲間であることが分かった。研究チームが試しに、室内でコーヒーさび病にかかった葉とオナジマイマイを一緒にして一晩おいたところ、なんとコーヒーさび病の病変部分にあった”さび”の部分だけがすっかり無くなっていたのだ。

カタツムリには歯舌(しぜつ)と呼ばれる、やすりのような器官を備えている。これを舐めるように動かしてエサを削り取りながら食べるのだが、このカタツムリは、どうやら葉の”さび”だけを削り取って食べているようだ。

オナジマイマイ
Youtube channel ”WikiTubia” 「[Wikipedia] Bulimulus guadalupensis」

オナジマイマイの防除効果とリスクは未知数

コーヒーさび菌を食べる生物は他にも知られているが、カタツムリの仲間が食べることは今回初めて明らかになったという。しかしながら、オナジマイマイにどれほどの防除効果があり、どんなリスクが潜んでいるのかについては未知数だ。

ある生物を駆逐するために、天敵となる生物を導入して防除する方法は生物的防除と呼ばれているが、1910年頃、沖縄でハブやネズミを駆除するために持ち込まれたマングースが次々と在来種を襲い、生態系を破壊した例のように、新たな脅威となる可能性も否定できない。

オナジマイマイはよく知られた作物害虫

実際に、このオナジマイマイは作物害虫であり、柑橘類やマメ科、アブラナ科植物などを食い荒らし、一部では深刻な問題も引き起こしている。オナジマイマイのコントロールに失敗したり、逆にコーヒーさび菌の生態サイクルにとって都合の良い影響をもたらす可能性もあるのだ。例えば、このカタツムリがコーヒーさび菌を食べた後のフンに、感染性が残っているかどうかもまだ詳しくは分かっていない。

生物的防除はまさに”諸刃の剣”だが、同時に、これまで有効な手段のなかったコーヒーさび病を文字通り”食い止める”、一筋の希望であることには間違いない。もしかしたら、これからの研究によって、コーヒーさび病に対抗するさらに有用な種を発見したり、オナジマイマイの捕食をヒントに新しい防除方法を見つけることができるかもしれない。

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