チョウやガの翅の模様からすべてのアルファベットと数字を集めたアートが美しい

虫が好きという人のなかには、少なからずその美しい模様や形に惹かれて好きになった人も多いでしょう。

特にチョウ類においては世界中にマニアがおり、ノルウェーで生まれた写真家、シェル･ブロック･サンドヴェッド(Kjell Bloch Sandved)さんもその魅力に取り憑かれた1人です。

1922年にノルウェーで生まれたシェルさんは、オスロ大学で電気工学を学んだのち、1948年に出版社を設立して1,000ページにも及ぶ音楽と芸術に関する百科事典『The World of Music』と『The World of Art』を手掛けました。

ここまでの経歴だけでも、あまりに多彩すぎて何が得意なのかよくわかりません…。6つの言語に堪能なシェルさんは、数か国に翻訳された本の印税で生計を立てて暮らしていました。

次の百科事典の編集を行っていたシェルさんは1960年、訪れていたアメリカのスミソニアン自然史博物館で、ある運命的な出会いを果たします。

きっかけはチョウの翅で見つけた｢F｣の文字

それはごく普通のチョウの標本でしたが、ある1つの標本の翅に｢F｣という文字を見つけました。シェルさんはこの標本の写真を撮り、机に飾って眺め続けるうち、その美しさに次第に魅了されていったといいます。

そして、他にはどのような模様があるのだろうかと考えているうちに、すべてのアルファベットを探し出すことを決意しました。
これまでのキャリアを捨てて写真家に転向し、世界各地を渡り歩きながら蝶や蛾のさまざまな模様を集め始めたのです。

そして1975年、ついに26文字のアルファベットと1～9までの数字が集められた最初のコンプリートセットが完成しました。

シェルさんはさらに完成後も、より良い模様を集めて改訂を行い26文字のアルファベットと0～9までの数字のセットを作り続けました。

私たちが普段気にも留めない小さな世界をアートとして表現することに成功したシェルさん。
2016年に93歳でこの世を去りましたが、多彩で好奇心と行動力に溢れたその生き方は、この作品のように、私たちに新しい視点を示しているようです。