赤ちゃんの泣き声はなぜ不快でうるさいのか?

赤ちゃんの泣き声にイライラする心理

バスや電車、病院の待合室などの様々な場面で、なかなか泣き止まない赤ちゃんに対して、あなた自身が不快に思ったり、または不快に感じている人を見かけたことはないだろうか?

「どうして寛容になることができないのか」と疑問に思う人がいるかもしれない。

通常であれば、どちらかが立ち去ることで問題は解決するが、避けられないような状況ではやがてトラブルへと発展することもある。実は、私たちには赤ちゃんの泣き声に”イライラ”してしまうような仕組みが備わっているのだ。

赤ちゃんの泣き声は大きくて不快なもの

私たち人間が、大きな音に対して不快感を示すのは当然のことだ。赤ちゃんの大きな泣き声は近くで聞くと80dB(デシベル)以上といわれており、ほとんどの人が不快に感じるレベルの音だ。これはパチンコの店内や救急車のサイレンにも匹敵する。

人間は赤ちゃんの泣き声に敏感

赤ちゃんの泣き声が不快に感じるのは、単に音が大きいという理由だけではない。大人が世話をしなければ生きていけない赤ちゃんにとって、大声で泣くことは周囲の大人に不快感や異常を伝える手段、生存するために大切ないわば”緊急信号”である。人間は高音の周波数領域で最も音を敏感に感じ取ることができるが、これは赤ちゃんの泣き声に反応するためといわれている。

実際に、大人の泣き声や動物の鳴き声を聞いた時と比べ、赤ちゃんの泣き声を聞いた時では脳内で非常に速い反応がみられ、赤ちゃんの泣き声を察知するような特定の脳領域が存在することが2012年にオックスフォード大学の実験により明らかになっている。興味深いことに、この反応は育児経験のない人であっても同様に観察されたことから、人間にとってごく当たり前の”機能”であると考えられる。

赤ちゃんの泣き声は本能的にイライラさせる

しかし、私たちはただ赤ちゃんの泣き声を素早く察知できるだけではない、私たちは赤ちゃんの泣き声を聞くと感情を司る扁桃体が活性化し、不安や不快などの情動が生じるような脳の機能が備わっているのだ。このような働きは、かつての私たちの祖先が赤ちゃんの危険を察知し、保護したり外敵から群れを守ることに役立っていたのかもしれない。赤ちゃんの泣き声は私たちに警戒行動を促し、ストレスレベルを上昇させるのだ。

私たちの祖先では、男性が群れを守る役割を担っていたため、特に男性は赤ちゃんの泣き声で”イライラ”しやすい傾向にある。もともとは赤ちゃんを守るための仕組みが、外敵のいない現在では本来の目的が失われ、逆に”耳障り”になってしまっているのだ。

母親は赤ちゃんへの共感性が高い

一方で、母親には”イライラしにくい”ような変化が起きる

女性の場合も同様に赤ちゃんの泣き声には敏感であるが、特に母親の場合は授乳期において愛情を高め、母子の絆を強めるオキシトシンが多く分泌されているため、赤ちゃんに対しては高い共感性を示すという。また、妊娠時から出産数週間後にかけて、母親の脳内では子育てに必要な脳の領域が発達するため、赤ちゃんに対しての共感性はより一層強いものになる。

妊娠以降、母親の脳は大きく変化する

バルセロナ自治大学が2016年に行った研究によると、妊娠後の母親の脳では社会的認知や共感性に関わる灰白質(かいはくしつ)と呼ばれる脳の領域の一部が縮小するという。

この部分は、母親が自分の赤ちゃんを見たときに活性化する領域で、それが”縮小”したというと、赤ちゃんの共感性に関わる機能が低下したように思われるが、これはむしろ不要な部分が取り払われ、赤ちゃんの共感に特化するような脳の変化が起きているのだという。これは脳のMRI画像をみれば簡単に確認することができるほどの大きな変化であり、MRI画像を見るだけで、その女性が妊娠を経験したかどうかも容易に区別できるほどだ。

つまり子育てを行っている、または行ったことのある女性は、赤ちゃんの泣き声には敏感ではあるものの、赤ちゃんに対する高い共感性から「イライラしにくい」のだ。このことに関しては、理論はもとより、そもそも子育ての大変さが分かる”経験者”であれば、赤ちゃんの泣き声や、その母親の大変さには共感せざるを得ないだろう。赤ちゃんの泣き声に関する、男性と女性の大きなギャップは、ここに要因があるのかもしれない。

もし赤ちゃんの泣き声でトラブルに発展しそうな場合には

赤ちゃんの泣き声は本能に訴えかけるものだ。赤ちゃんの泣き声にイライラしている人は、単純に「大きな音」に対するストレスだけでない。より強い感情を伴って、体は無意識に”外敵と戦うため”の準備をはじめる。もしトラブルに遭遇した場合は、万が一の場合を考え、反論したりせずにその場を立ち去るように促そう。

もしあなたが赤ちゃんの泣き声にイライラしてしまうのなら、ぜひ赤ちゃんと触れ合う機会を作ってみてはいかがだろうか。上記でも説明している通り、人間の脳は赤ちゃんと接することによって共感性を高めるような仕組みがあり、これは母親や女性だけに限った話ではない。”赤ちゃん嫌い”を自覚している人でも、きっと赤ちゃんが好きになるはずだ。

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