Aplopeltura boa, Blunt-headed tree snake – Mueang Krabi District flickr photo by Rushen! shared under a Creative Commons (BY-SA) license
エダセダカヘビ(Aplopeltura boa)。
多くの動物は、人間と同じように上アゴと下アゴが蝶番(ちょうつがい)のようになっている開閉式で、これで獲物を捕らえたり食べ物を咀嚼(そしゃく)している。ほとんどの動物がこの方式になっているのは、進化的起源が同じである相同器官であるからだ。しかし、セダカヘビと呼ばれるヘビでは、他に類を見ないような驚くべきアゴを有している。
東南アジアや中国、台湾、琉球列島などに生息するセダカヘビ科は3属15種からなり、いずれもタニシ・カタツムリなどの巻貝を主食とするヘビだ。当然ながら殻の部分は食べられないため、このヘビが殻から中身を引きずり出すのは困難であるかに思われるかもしれない。
だが、セダカヘビの仲間では上アゴと下アゴの骨が完全に分離しており、さらに左右の下アゴもそれぞれ前後に動かすことができるのだ。このまるで”工具”のような特殊なアゴを使って、セダカヘビはカタツムリの殻から身の部分を引きずり出して食べることができる。
△セダカヘビ属の一種(Pareas catinatus)。この動画は捕食開始(0:42)から再生されるよう設定されているが、ヘビ好きな方はぜひ動画冒頭(0:00~0:42)の”愛くるしい仕草”をご覧いただきたい。
興味深いことに、セダカヘビの多くは下アゴが左右非対称となっており、右の下アゴの方がよく発達している。これは、カタツムリなどの巻貝の大部分が右巻きであるからだ。殻が右巻きなら、左の下アゴの方が奥まで牙が届きやすい。そこで、発達した右の下アゴでしっかりと巻貝を固定し、左の下アゴで中身を引きずり出すというわけだ。
ナイフとフォーク
カタツムリを食べるための、セダカヘビのこのような特殊な形態は以前から知られていた。しかし、ある種のセダカヘビではなぜか、下アゴがほぼ左右対称なのだ。前述の通り、巻貝の大部分は右巻きであるため、下アゴは左右非対称のほうが都合がよいはずだ。
東邦大学の研究者らはその謎を解明するため、マレーシア・サラワク州森林局の研究者らと共同で、マレーシア領ボルネオ島のエダセダカヘビを捕獲し、巻貝を与えてどのように捕食するかを観察した。
研究者らがエダセダカヘビに与えたのは陸棲のタニシの一種だ。タニシはカタツムリとは異なり、入り口には消化できない蓋がついているため、取り出すのは困難である。
しかし、エダセダカヘビはタニシの体に噛みつくと、なんと片方の下アゴをまるでナイフのように前後に動かして蓋の部分だけを器用に切り落としたのだ。エダセダカヘビの特殊な下アゴは、巻貝から中身を引きずり出すだけではなく、まるでナイフとフォークを使うように、片方の下アゴで固定し、もう片方で切り落とすという使い方もできることが、今回の研究によりはじめて明らかになった。
下アゴが左右対称であるエダセダカヘビの謎を解く鍵はどうやら、この特殊な行動に隠されているようだが、結論を出すにはさらなる研究が必要なようだ。
セダカヘビは日本にも分布
セダカヘビは、実は日本にも分布している。南西諸島の石垣島と西表島にはイワサキセダカヘビという日本固有種が生息しているが、準絶滅危惧種に指定されており、滅多にみられない。
もし見つかればちょっとしたニュースになるほどだが、もし機会があれば探してみるといいかもしれない。 ※ただし、少なくとも今年中は安易な観光を避けた方がいいだろう。