15mの潜水はマティーニ1杯に相当する――窒素酔いとマティーニの法則とは?

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美しい海の世界を実際に体験できるスキューバダイビングはとても魅力的だ。慣れれば慣れるほど、もっと深くまで潜ってみたいと思うようになるだろう。しかし、深く潜れば潜るほど、多くの人に”ある異変”が現れるという――

私たちは、陸上では1気圧の空気を呼吸して生活している。しかし、水中では水圧の影響で10mごとにタンク中の空気は1気圧上昇するため、10m潜れば2気圧、20m潜れば3気圧・・・と上昇していく。このとき、1気圧の地上よりも酸素や窒素を多く体内に取り入れることになってしまうのだ。

特に窒素における圧力(分圧)だけをみた場合、地上における窒素の分圧は0.78気圧であるが、10m潜ると1.56気圧、20m潜ると2.34気圧、30m潜ると3.12気圧となる。このように、窒素の分圧が上昇して3~4気圧以上になると、窒素酔いと呼ばれる特徴的な症状が現れる。

窒素酔いの主な症状は酩酊感や多幸感・高揚感だ。窒素の麻酔作用によって、まるでお酒に酔ったときのように思考能力および判断能力、方向感覚が低下し、気が大きくなって楽観的または自信過剰な傾向が強くなる。これがダイビングにおいては極めて危険で、空気残量が残り少ないことに気が付かない、さらに深く潜水しようとする、危険生物に近づく、マウスピースを外すなどといった命に関わる危険な行動を取ることもある。


BC bubbles flickr photo by Derek Keats shared under a Creative Commons (BY) license
窒素酔いでは、お酒の酔いやすさと同様にその日の体調が大きな影響を与えることが知られている。体調の悪い日にダイビングを行うことは窒素酔いをはじめ、あらゆる危険性を高めるため、絶対にやめよう。

マティーニの法則

ダイビングの世界でよく知られている”法則”に、マティーニの法則というものがある。マティーニはジンベースのカクテルであり、この法則は「15m深く潜るごとに1杯のマティーニを飲んだ場合と同程度に窒素酔いを起こす」というものだ。つまり15m潜れば1杯、30m潜れば2杯分のマティーニを飲んだときと同じような酩酊感をもたらすという経験則である。お酒の強さに個人差があるように、窒素酔いの場合でも個人差が大きいことが知られており、30m以上潜っても平気な人もいれば、15mほどでかなり明確に症状が現れる場合もある。

しかしながら、お酒の強さと窒素酔いの強さに関しては、発生機序が異なるため必ずしも一致するとは限らないが、酔ったときの行動、いわゆる”酒癖”があまりにひどい人は、窒素酔いの状態でも同じように危険な行動を取りやすくなるかもしれないので、注意が必要だろう。

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