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妊娠初期では、妊婦の50~80%が悪阻(つわり)を経験する。これは胎盤から分泌されるホルモンが影響していると考えられており、妊娠5~6週から始まって、胎盤が完成する妊娠12~15週頃には落ち着いてくる。出産することや母親になることへの不安も重なって、妊婦にとっては非常につらい時期だ。
一方で、悪阻がみられるこの時期に、なんと夫にも同様に悪阻の症状が現れるという奇妙な症例が報告されている。
男性の悪阻、クーヴァード症候群
妻の妊娠中、主に悪阻の症状がみられる時期に、稀にその夫にも同様に悪阻の症状が現れることがある。これをクーヴァード症候群(Couvade Syndrome)、日本では擬娩(ぎべん)症候群または偽娩症候群という。
このクーヴァード(Couvade)は、ヨーロッパなど一部の地域に伝わる「妻の妊娠中に夫が日常的な活動を自粛したり、出産時のうめき声などを真似する、何らかの方法で自分に苦痛を与えるなど、妊娠・出産に際して妻の苦しみを共有する」という儀式的な風習”Couvade”に由来している。ちなみに”Couvade”はもともとフランス語で「孵化」や「抱卵」を意味する言葉だ。
主な症状は食欲不振や吐き気・めまい・腹痛などで、妊婦と同じように睡眠時間が増えたり、感情的になりやすくなるなどの変化がみられる場合もあり、稀に匂いに敏感になる、食べ物の好みに変化が現れるなどの妊婦特有の症状まで現れることもあるという。
クーヴァード症候群の発症機構とは?
クーヴァード症候群は他にも”sympathetic pregnancy”、直訳で「同情的妊娠」と呼ばれるように、主に悪阻の症状が現れている妊婦の妻に対して過度に同調・共感することで発症する心身症の一種であると考えられており、共感性の高い人や、妻の悪阻の症状が重い場合などに発症しやすくなる傾向があるという。
治療についても、多くは妻の悪阻の症状が治まると同時に軽快するため、他に身体の異常などが見つからなければ特別な治療を必要としない。
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イギリスではクーヴァード症候群を発症した夫に”産休”が与えられるなどの、日本より先進的(?)な事例もあるという。悪阻、出産・育児への不安、行動の制約など、妊婦の大変さというものは並大抵のものではなく、社会的には進んで配慮されるべき存在であるが、陰で支える夫への配慮も忘れないでおきたい。