世界で日本だけ、2度しか確認されていない幻のクラゲ「イセマミズクラゲ」とは?

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Biotom [CC BY-SA 3.0wiki commons 写真はマミズクラゲ(Craspedacusta sowerbyi)。

マミズクラゲと呼ばれるクラゲをご存じでしょうか?クラゲは一般に海に生息するものですが、マミズクラゲ(Craspedacusta sowerbyi)はその名の示す通り、淡水に生息するクラゲです。傘の直径は1~2cmほどで、小さいながらも細い触手が100~200本も生えています。原産は中国とされ、1250年頃の『忠州桃花魚記』という中国の紀行書には”桃の花が満開になった長江(揚子江)流域で、水に落ちた桃の花だと思ってよく見ると実は生き物だった”という記述があり、”桃花魚”または”桃花扇”という名前でマミズクラゲが紹介されていました。

神出鬼没のマミズクラゲ

このマミズクラゲが世界に広く知られるようになったのは1880年、ロンドン北部にある王立公園”リージェンツ・パーク”でのこと。なんと、オオオニバスの大型水槽に突如として出現したといいます。淡水性で、しかも突然現れたというこの小さなクラゲは当時、大きな話題を呼びました。

日本でのマミズクラゲの発見は1929年、東京帝国大学農学部の水産学教室の水槽に出現したものが最初の発見であるとされています。しかし、実はその発見の8年前となる1921年に、マミズクラゲに似た”あるクラゲ”が既に三重県のとある井戸から発見されていました。

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photo by Rostislav Štefánek 
マミズクラゲは通常のクラゲと同様に雌雄異体(雄の個体と雌の個体がそれぞれ存在する)ですが、発生した場所で見つかるのは雄または雌のみからなる個体群です。無性生殖できるとはいえ雌雄異体である以上は生活史のどこかで有性生殖を行っているはずですが、未だ明らかになってはいません。

幻のクラゲ、イセマミズクラゲ

1921年9月22日、三重県津市新町にある柏原氏宅の古井戸に突然発生した淡水性の小さなクラゲを、研究者の原 孫六(まごろく)氏が発見しました。日本で初めてとなるマミズクラゲの発見かと思われましたが、採取したサンプルを調べてみると、いずれも触手の本数が128本と少ないことや、いくつかの構造に異なる点がみられることから、マミズクラゲとは異なる新種であることが明らかになりました。翌月には動物学者の丘 浅次郎氏と共に論文を発表し、このクラゲはイセマミズクラゲ(学名:Limnocodium iseana)と名付けられました(ただし、現在の学名はCraspedacusta iseana)。

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イセマミズクラゲの論文にあるマミズクラゲ(左)とイセマミズクラゲ(右)の触手のスケッチ。

このイセマミズクラゲは翌年の1922年にも同じ井戸に発生が確認されましたが、1923年以降からは確認されず、現在までの約100年に渡ってイセマミズクラゲの発生は報告されていません。イセマミズクラゲが発生していた井戸を調べようにも、なんと火事によって消失してしまったため、現在では全く手掛かりが無い状態であるといいます。まさに”幻のクラゲ”なのだ。

イセマミズクラゲは再び発見されるのか?

このイセマミズクラゲはもちろん、全世界で一般にみられるマミズクラゲでさえ、どのようにして突然発生するのか詳細には明らかになっておらず、飼育方法も確立されていないため研究はあまり進んでいません。ですが、突然発生については、おおよその見当はついているといいます。

イセマミズクラゲが「ポリプ」と呼ばれる成長段階のときに、低水温や水質悪化、乾燥などの環境ストレスにさらされると、単純な細胞の塊となって、さらに丈夫な膜で体を覆って身を守る「シスト(被嚢体)」と呼ばれる状態になります。

高名な動物分類学者であり、イセマミズクラゲが新種であることを確認した内田亨(うちだ とおる)氏によると、このシストの状態は乾燥に強いため、水が乾いたときに風に飛ばされるか動物によって運ばれるなどして移動し、再び水を得たときにポリプの状態へと戻ることができるかもしれないといいます。

まだ誰も確認に成功していないので、あくまで仮説ということになりますが、イセマミズクラゲのシストが発見場所となった井戸へと運ばれ、そこからポリプの状態へと戻ってクラゲが発生したという可能性は十分にあると思われます。

1921年の『動物学雑誌』によると、イセマミズクラゲが発見された井戸の直径は70cmほどで、水の深さは2.6mほど。井戸は20年間使用されておらず、よく日が当たるそうです。もしかしたら、この井戸の地下水のなかでイセマミズクラゲが今もひっそりと暮らしているのかもしれません。

※イセマミズクラゲには残存している写真や動画がなく、本記事にイセマミズクラゲの動画・画像は掲載されておりません。掲載されている写真及び動画はマミズクラゲ(Craspedacusta sowerbyi)になります。