インディアンを服従させるために乱獲され、絶滅寸前にまで追い込まれた「アメリカバイソン」

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1870年代に撮影されたこの写真に、まるで山のように積み上げられているものはすべてアメリカバイソンの骨だ。しかも、よく見ると分かる通りその全てが頭骨である。写真に写っている2人の男性は、それぞれ頭骨を足で踏みつけて誇らしげにポーズをとっている。一体、何頭分ものアメリカバイソンが積み上げられているのだろうかーー

アメリカバイソンは北アメリカに広く生息しているウシ科の動物で、アメリカヤギュウとも呼ばれている。体長は2~3.5m、肩までの高さは1.5~2mにもなる巨体で、重さは300kg~900kgにもなり、北アメリカにおいては最も重い動物である。これが最高時速60~65キロの速さで突進してくるのだから、直撃したらひとたまりも無いだろう。事実、若い個体や年老いた個体が襲われることはあるものの、アメリカバイソンに天敵はまず存在しないのだ。

アメリカ先住民族であるアメリカン・インディアン(以降、インディアン)にとって、アメリカバイソンは古くから重要な動物の1つであり、生活に欠かすことのできない存在であった。肉は食用に、毛皮は衣類や住居に、骨はナイフや矢じりなどの武器へとそれぞれ余すことなく利用される。

インディアンがアメリカバイソンを狩猟するときは、弓で仕留めるのはもちろん、追い詰めて崖から落とすといった伝統的な狩猟が行われ、その個体数は絶妙なバランスが保たれていた。しかし、17世紀頃にアメリカ大陸に白人の移入者たちが来ると、事態は大きく変わった。

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移入者たちは放牧地や農地を確保し、そして皮革や食料を手に入れるためにアメリカバイソンを積極的に狩猟していった。インディアンたちが弓などの伝統的な狩猟を行うのに対して、移入者たちは銃を使った効率的な狩猟を行う。近代武器の圧倒的な力によって、アメリカバイソンの個体数は急速に減少していった。さらに19世紀半ばに入ると、移入者たちはインディアンたちを従わせて支配下に置くためにアメリカバイソンを大量に殺すようになった。インディアンの生活はアメリカバイソンに大きく依存していたため、食料はもちろん、生活に必要な衣類や道具さえ作ることができなくなっていった。

積み上げられた頭骨の写真も、この頃に撮影されたものだ。しばしば、アメリカバイソンは狩猟を楽しむためだけに殺され、死体がそのまま放置されたという。また、インディアン自身も移入者がもたらす酒や銃などの現代品と取引するために、より多くのアメリカバイソンを狩猟するようになった。やがてインディアンは弱体化し、白人たちの支配を受け入れるようになったのだ。

こうして個体数は減少し、移入者が来る前は5~6千万頭いたとされているアメリカバイソンは、19世紀終わり頃には数百頭にまで減少したという。この頃にはアメリカバイソンを保護しようとする試みは始まっていたが、この運動は開拓期の動乱のために広がることはなかった。20世紀に入ってから、イエローストーン国立公園などの保護区を中心にアメリカバイソンの保護活動が行われるようになった。

アメリカバイソンの妊娠期間は約9か月、1回の出産で基本的に1頭しか生まれないため、個体数の回復は長い道のりであったが、現在では保護区で20万頭にまでに回復しており、IUCNのレッドリストでは準絶滅危惧種となっている。

さらに2016年にはバラク・オバマ大統領によってバイソン遺産法が成立し、アメリカバイソンは正式に「国の哺乳類」に指定された。これはアメリカの歴史を通して、アメリカバイソンが文化的に非常に重要な存在であることを象徴すると同時に、この国で起きた過ちを認めるということだ。アメリカバイソンの、かつての尊厳は取り戻されつつある。


Bison in Hayden Valley flickr photo by YellowstoneNPS shared with no copyright restrictions using Creative Commons Public Domain Mark (PDM)

※本稿における”インディアン”は差別的な意味合いを含むものではありません。

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