自らの”毒”の影響を受ける、日本の伝統食材「ワサビ」

2018年10月10日


Wasabi flickr photo by Studio Sarah Lou shared under a Creative Commons (BY) license

日本で古くから親しまれている「ワサビ」。ツーンとくる辛さと独特の風味は、日本の伝統食である寿司や刺身などを食べるうえでは欠かせない。近年では和食ブームによって世界から注目を集めており、今や日本を代表する香辛野菜となっている。

このワサビ特有の辛みを生み出している化学物質はいくつもあるが、そのなかで代表される辛み成分がアリルイソチオシアネートだ。この物質はただ辛いだけでなく強い抗菌作用があるため、寿司や刺身などの生魚と組み合わせると食中毒を防ぐ効果が期待できる。さらにアリルイソチオシアネートには食欲を増進させる効果もあり、近年では抗酸化作用や抗がん作用なども報告されている。

ワサビの特殊な栽培方法

江戸時代の静岡県で栽培されるようになったといわれているワサビは、主にワサビ田や渓流など水の中で栽培する「水ワサビ(沢ワサビ)」と、畑で栽培される「畑ワサビ(陸ワサビ)」の2通りの栽培方法がある。水ワサビは畑である程度育てた苗を、畑からわさび田や渓流へと移植させたものだ。ワサビは土の中と水の中、どちらでも育てることができるが、成長したワサビの根の大きさを比較すると、畑で育てたワサビに比べて、水の中で育てたワサビの方が根が大きくなるのだ。しかしながら、なぜ水の中で育てた水ワサビだけ、根が大きくなるのだろうか?


WASABI field / Wasabia japonica / 山葵田(わさびだ) flickr photo by TANAKA Juuyoh (田中十洋) shared under a Creative Commons (BY) license

実は、ワサビが持つ辛み成分であるアリルイソチオシアネートには植物の成長を阻害させる働きがあるのだ。ワサビはこの物質を根から放出することによって、他の植物が周囲に生えないようにしている。こうしてワサビは土壌の栄養分を独占できるのだ。

しかし問題もあって、なんとワサビ自身もこのアリルイソチオシアネートの影響を受ける。ワサビは自らが出す毒によって自らが大きく成長できないのだ。これを自家中毒という。しかし、ワサビを水の中で育てる栽培方法では、ワサビの根から放出されたアリルイソチオシアネートが水によって流されるため、水ワサビの根は大きく育つことができるのだ。

自家中毒を防ぐことによって得られる効果は、根が大きくなることだけではない。水ワサビでは、畑ワサビよりも品質や味が良くなるのだ。このことから、水ワサビはふだん私たちが利用する生食用に、畑ワサビは主にワサビ漬けなどの用途に利用されている。私たちがこうして美味しいワサビを味わうことできるのは、先人たちの知恵と技術があったからに他ならないのだ。


Wasabi Pavillion flickr photo by osiristhe shared under a Creative Commons (BY-ND) license

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