想像よりも過酷なタテゴトアザラシの”親離れ”とは?


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動物界でも屈指のかわいさを誇る、アザラシの赤ちゃん。黒く潤んだ瞳、ふわふわとした体毛、横たわる姿――何をとっても”可愛い”の一言に尽きる。しかし、これらの特徴は当然ながら、人間に可愛いがられるためのものではない。白い体毛は流氷の雪に身を隠すためであるし、丸みのあるふくよかな体は、厳しい寒さに耐えるために脂肪が蓄えられているのだ。生まれて間もないアザラシの赤ちゃんには、しっかりと生き抜くための術が備わっている。

タテゴトアザラシは北極の海が流氷に覆われる3月頃に、流氷の上で出産を行う。流氷の上は天敵となるホッキョクグマがやって来ないうえに、シャチにも見つかりにくいからだ。生むのは通常、1回の出産で1頭だけ。生まれてから1~2日くらいは、体毛が黄色みがかった色をしており、俗に”イエローコート”と呼ばれている。これは、母親の羊水によって染まったもので、赤ちゃんは日を追うごとに色が抜けて、次第に真っ白な”ホワイトコート”になるのだ。


Baby Seal 1 flickr photo by carolineCCB shared under a Creative Commons (BY) license
”イエローコート”のアザラシの赤ちゃん。

エサを取れない間は、母アザラシの母乳で育つことになる。生まれたばかりの体重は約8kgほどだが、赤ちゃんは1日になんと2~3kgのペースで体重が増えていく。一方で、母アザラシは出産から数日はずっと赤ちゃんアザラシに付きっきりで、エサを食べずに子育てを行うため体重は1日に4kgずつ減っていく。母アザラシは出産前に脂肪をたくさん蓄え、これを分解してエネルギーを得ることができるため、絶食しながらでも子育てを行うことができるのだ。

3日ほど経つと、母アザラシは海へエサを取りに行き始める。赤ちゃんアザラシの近くには、母アザラシが作った「シールホール」と呼ばれる流氷に開いた穴があり、母アザラシはここから海へエサを取りに行く。赤ちゃんアザラシはこのシールホールの近くで母親を待つことになるが、しばしば赤ちゃんアザラシがこのシールホールから離れたり、母親が赤ちゃんアザラシを見失ってはぐれてしまうことがあるのだ。

母と子は匂いと鳴き声で、親子であるかを判断する。はぐれてしまった赤ちゃんアザラシは、必死に母アザラシを探し、近くにいる大人のアザラシに手当たり次第に近寄っていく。しかし、匂いや鳴き声で自分の子ではないと分かった大人のアザラシは、のしかかったり噛みついたりして容赦なく攻撃する。はぐれてしまった赤ちゃんアザラシは、母アザラシの母乳だけが頼りであるため、母親と出会えなければ徐々にやせ細って餓死してしまう。アザラシにとって、他人の子より本当の我が子を確実に育てる方が、生存戦略として有利なのだろう。

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credit by Matthieu Godbout [GFDL, CC-BY-SA-3.0 or CC BY-SA 2.5 wikimedia commons

母アザラシがエサを頻繁に取りに行くようになると、母アザラシは赤ちゃんアザラシの近くにいても海の中にいることが多くなる。気温は-30度にもなるので海の方が暖かいという理由もあるが、一番の理由は子どもに泳ぎ方を教えるためだ。母アザラシは海の中から顔を出して、子アザラシを海へと誘う。

母アザラシが海の中にいるので、赤ちゃんアザラシも海の中へと入り始める。最初は水に顔をつけられずに、何度もすぐ陸にあがってしまうが、数日かけて練習すると不器用ではあるが海の中を泳げるようになっていくのだ。赤ちゃんアザラシが泳げるようになると、別れの日はもうすぐだ。

生まれてから約2週間。ある日を境に、母アザラシは赤ちゃんアザラシの前に姿を現わさなくなる。赤ちゃんアザラシはいつも通りにシールホールの近くで母アザラシを待ち、鳴き声を出して母親を探すが、母アザラシはすでに群れで北極の海へと旅立っているのだ。赤ちゃんアザラシは流氷が解けると同時に海へと投げ出され、これからは自力で厳しい自然を生き抜いていかなければならない。赤ちゃんアザラシは、母親の後を追うように北を目指す――

――母と子の突然の別れから4、5年経ったある日、北極の海から立派に成長したアザラシが再び流氷へとやってきた。子どもだったアザラシも、今では立派な大人のアザラシだ。そして、そのお腹には新しい命が宿っている。今度は自らが母親となり、流氷が解けるまでに我が子を立派に泳げるまでに育てなければならないのだ。母からの愛情を受け継いで、親子の絆が再び試される。

この記事へのコメント

山村

わかりやすくまとめられていて良かった。

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