飢餓になると逆にお腹が膨らむ?クワシオルコルとは?


Morning in Mugunga camp flickr photo by Julien Harneis shared under a Creative Commons (BY-SA) license

『ハゲワシと少女』という有名な写真がある。飢餓で立ち上がることすらできない少女をハゲワシが狙っているという非常に衝撃的なその写真は全世界に衝撃を与え、大きく取り上げられると同時に「報道と人命のどちらが大切なのか」という論争を巻き起こした。

撮影したケビン・カーター氏はこの写真でピューリッツァー賞を受賞したが、後に自殺を図っている。実際には、ハゲワシは腐肉食性であるため生きた動物はほとんど食べない(参考記事:ハゲワシはなぜハゲているのか?)。その上、カーター氏は写真撮影後すぐにハゲワシを追い払っている。そして、例え食べ物があったとしても少女がそれを口にするのは既に難しくなっていただろう――


Sudane Famine flickr photo by cliff1066™ shared under a Creative Commons (BY) license

飢餓問題に苦しむ子どもたちは世界的には減少傾向にあるが、それでも依然として飢餓に苦しむ子どもたちは多く、アフリカでは未だに増加の一途を辿っている。国際連合児童基金、ユニセフ(UNICEF)の最新の報告によれば、全世界の5歳児未満の子どものうち22.9%、約1億5,500万人という日本人口を上回るほどの児童が栄養不良による発育阻害で苦しんでいる。亡くなる子どものうち45%は栄養不良が原因で命を落としており、その数は毎年310万人にものぼる。

飢餓状態に陥った子どもたちの身体はとても痛ましい。手足はやせ細って、胸はあばら骨が浮かび上がり、目からは生気が失われている。しかし不思議なことに、お腹だけは異常に膨れあがるのだ。なぜ、このようなことが起きるのだろうか?


Start Young flickr photo by Rod Waddington shared under a Creative Commons (BY-SA) license

この症状はクワシオルコル(kwashiorkor)、またはクワシオルコアと呼ばれる低栄養状態だ。人間がエネルギーにできるものは「炭水化物」と「たんぱく質」と「脂質」の3つであるが、クワシオルコルではこれらのうち、たんぱく質が重度に欠乏した状態となっている。
人の母乳にはたんぱく質が含まれているので、母乳栄養を受けている子どもは通常、たんぱく質が重度に欠乏することはほとんどない(参考記事:母乳と牛乳の違いとは?)。

しかし、新しく弟や妹が生まれると、上の子は母乳栄養から離されてしまい、たんぱく質が不足するためクワシオルコルを発症することがあるのだ。クワシオルコルとはアフリカの言葉で「第1子と第2子」という意味である。

ちなみに、クワシオルコルの語源は「赤い子」とされることもあるがこれは誤訳で、確かにクワシオルコルでは特有の皮膚症状によって皮膚が赤くなることがあるが、これが語源となっているわけではないそうだ。

熱帯地方での離乳は2~3歳の間で行われることが多く、離乳後はヤマイモやサツマイモ、米やバナナなど炭水化物が中心の食生活になるため、クワシオルコルも2~3歳頃の子どもに起きやすい。症状は腹部の膨張をはじめ、食欲不振、貧血、衰弱、脂肪肝などが現れ、発達障害や知能障害などを認めることもある。お腹が膨れる原因は、肝臓におけるたんぱく質の合成が低下することによって低アルブミン血症を発症し、浮腫や腹水が引き起こされるからであると考えられている。

例え食べるものがあったとしても、栄養が不足しているために様々な症状に悩まされる子どもは多い。栄養失調状態ではさらに免疫力も低下するため、感染症にかかりやすくなるという危険もある。ユニセフでは栄養不良に苦しむ子どもたちのために常時募金を呼びかけているので、興味のあるかたはぜひユニセフ公式ページを参照してほしい。


Medical staff examine a child for signs of malnourishment in DRC flickr photo by DFID – UK Department for International Development shared under a Creative Commons (BY-SA) license

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