眼の下に巨大な袋を持つ金魚、スイホウガン(水泡眼)とは?

「魚を飼っている」といえば、ほとんどの人は金魚のことを想像することだろう。今から1700年以上前の中国で、フナが突然変異を起こし、赤い色のヒブナが誕生した――これが金魚の起源であるといわれている。フナは当然変異を引き起こしやすいのだ。以降、数百年にも渡って金魚は盛んに品種改良が行われており、正式に認定されていない品種などを含めると100品種以上存在しているが、これらの品種全てが金魚(学名:Carassius auratus)という1つの種として扱われている。

日本には文亀2年(1502年)頃に中国から渡ってきたものといわれている。その後も中国と日本の両方で美しい色彩や形を求めて様々な品種の改良が積極的に行われた。最初は武士たちの娯楽として飼われていたが、江戸時代になってからは庶民に普及し、その後広く人々に親しまれてきた。

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その数多くの金魚のなかでも、ある意味で最も「品種改良に成功した」ものがこのスイホウガン(水泡眼)だ。元々は中国の品種で、宮廷で飼育されていたため長らく門外不出であったが、1958年にようやく日本に輸出された。
流通しているものは日本人の好みに合うように改良されたものだ。原型はハマトウユウイ(哈莫頭魚)という、スイホウガンより小さな未発達の水泡袋をもった品種とされており、スイホウガンの水泡袋が破れていたり、均等に発達しなかった個体を指してハマトイウと呼ぶこともある。

体長は最大で15cmほどで、寿命は数年程度。体色は赤や白などが一般的であるが、少数ではあるが青や黒、茶色などの単色、これらのまだら模様(キャリコ)なども見られる。基本的に背びれは無いが、中国では背びれのある個体(セルフィンスイホウガン)も見られる。しかし、残念ながら流通はほとんどされていないようだ。

一般的な金魚は真横から見て楽しむのが一般的であるが、背びれがなく、尾びれが短く開いており、大きく膨らんだ水泡に上向きの眼は、むしろ真上から見ることによって楽しむことができるのも大きな魅力の1つだ。スイホウガンでは特に模様や体型の美しさだけでなく、水泡袋の左右対称性が重要なポイントとなる。

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スイホウガンの大きな特徴であるこの水泡は眼の角膜が肥大化したもので、内部は液体で満たされている。幼齢では水泡がほとんど見られないが、成長するにしたがって次第に大きく膨れ上がり、眼はだんだん上を向いてくるようになるのだ。すぐ破れてしまいかねないように見えるが、見た目よりも丈夫で、むしろ眼を保護するエアバックのようになって致命的な眼の損傷を防いでいるためデメキンなどよりも飼育しやすいという主張すらある。

この水泡内部を満たしている液体はリンパ液として説明されることが多い。愛知県水産試験場と名古屋大学による共同研究ではスイホウガンの水泡の内部を満たす液体が金魚やアユの未受精卵を、受精能力を保ったまま長時間保存できることや魚類の細胞培養に用いられる添加剤として有効なことを発見しており、特許を出願している。

実験的価値も見出されているようで、水泡の中の液体はある程度採取しても1~2週間で元の大きさに戻るうえに、水泡内に直接抗原を投与して抗体を産生させることができるため、免疫動物として扱う試みもある。


水泡眼金魚 flickr photo by Mirror Ko shared under a Creative Commons (BY-SA) license

この特別な金魚の飼育には、もちろん飼育には特別な注意が必要だ。眼の下にあるこの水泡は前述にある通り、見た目より丈夫だがもちろん破けてしまうことがある。当然、飼育する水槽内には流木やとがっているオブジェなどを置いてはいけない。使用するオブジェは角のない、丸みを帯びたやさしい素材を使うといいだろう。雑食であるが草食性も強いため、柔らかい水草は食べられてしまうことがある。

動きはとても遅いため、他の素早い魚と一緒に飼うとエサを取れなくなって弱ったり、ぶつかったりいじめられたりして水泡が破けてしまうことがある。スイホウガンを大切に飼うためには、他の魚を一緒の水槽に飼うのはなるべく避けた方がいいだろう。水泡にさえ気を付ければ、強健で飼育しやすい品種であるとされている。

もし水泡が破れてしまっても命に直結するようなことにはならないので安心してほしい。この水泡袋は破れても治るが、元通りの大きさや綺麗な形に戻るのは難しいようだ。

スイホウガンに似た種にはチョウテンガン(頂天眼)が存在し、赤デメキンの突然変異種とされている。こちらもスイホウガンと同様に当初は中国の宮廷で飼育されていた門外不出だった金魚で、スイホウガン同様に上向きの目を持っており、真上から見ても大変に可愛らしい人気の品種だ。

金魚は大切に買うと10年以上は生きてくれる。縁日などの金魚すくいで手に入れてもいいが、大切に育てたいならペットショップやアクアリウムの専門店で、品種をしっかり選んで購入するといいだろう。スイホウガンもきっと”上目遣い”であなたを歓迎してくれるに違いない。

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