月面に舞う砂埃、月の砂「レゴリス」とは?

2018年7月2日


Half Moon flickr photo by Wayne Large shared under a Creative Commons (BY-ND) license

アポロ11号の宇宙飛行士たちが人類で初めて月に到達してから約50年。長い間、人類にとって月は憧れであり目標でもあった。現在では民間による様々なプロジェクトも立ち上げられており、そう遠くない未来には月面にコロニーが建設され、誰もが月面旅行を楽しむことができるようになるだろう。

しかし、課題は山積みだ。極端な温度変化や降り注ぐ高レベルの放射線など、人類が月面で活動するには様々な問題が立ちふさがっている。その中の一つが、月表面の堆積物「レゴリス」だ。レゴリスとは惑星科学において「惑星や衛星などの表面にある細かい堆積物」を指す言葉で、月の表面にあるレゴリスは区別して「月レゴリス」と呼ぶこともあるが、ここでは単にレゴリスとする。

月の砂「レゴリス」

レゴリスの多くは1mm未満で、小さなものでは10µm(マイクロメートル)と非常に小さい。一般的な地球の砂よりも細かいため、砂というよりは小麦粉などの粉に近いのだ。月では絶え間なく隕石や、その他の微小天体などが絶え間なく衝突しており、レゴリスはこれらの天体や月の岩盤などが細かく砕かれて風化することで生成される。

では、このレゴリスによってどのような問題が生じるのだろうか?
まず最初に挙げられるのは「舞い上がりやすい」ということだ。月の重力は地球の約6分の1と小さい。そのため、月に着陸した時やローバーなどで月面を移動したときに、レゴリスが舞い上がるのだ。

レゴリスが引き起こす様々な問題

アポロ15号が月面に着陸したときには、巻き上がったレゴリスによって視界不良に陥り、見通せる距離が18m以下になったという。また、アポロ11号では月面にひいていたケーブルの上にレゴリスのダストが覆い被さってケーブルが隠れ、これに気付かなかった宇宙飛行士が引っかかり転倒するという事態が生じた。


Released to Public: Apollo 15 on the Moon (NASA) flickr photo by pingnews.com shared with no copyright restrictions using Creative Commons Public Domain Mark (PDM)

また、粒子が非常に細かいため、機械の隙間や駆動部分に入り込んで性能の低下や摩耗などが起こり、最悪の場合は機器の動作不良などを引き起こす。アポロ16号ではレゴリスによって機器がオーバーヒートを起こして性能不良になったり、ゲージのダイヤル部分に繰り返しかぶさるレゴリスのダストを何度もぬぐい取ったために、ダイヤル部分が摩耗して読めなくなったという。

この細かく舞い上がりやすいレゴリスは、主に二酸化ケイ素や酸化アルミニウム、酸化カルシウムなどの酸化金属によって構成されており、わずかな磁性と帯電作用を持っている。また、レゴリスの粒子表面は天体が衝突したときの熱によって丸くなっているものもあれば、鋭く尖っているものもある。つまり、舞い上がったレゴリスが宇宙服や機器類に付着すると静電気と表面の鋭利な構造により簡単には落ちにくいのだ。

レゴリスの健康被害

また、レゴリスにはより深刻な問題もある。それが健康被害だ。宇宙服に付着したレゴリスが宇宙船内に持ち込まれて空間内で舞い上がるとレゴリスの吸引が起きる。レゴリスの表面は鋭利になっているものも多く、肺疾患などを引き起こす可能性が指摘されている。

アポロ17号の地質学者の宇宙飛行士、ハリソン・シュミットはこのレゴリスを吸引した後、花粉症のような症状が出たという。この症状は、後遺症もなく翌日には回復したという。レゴリスによる健康被害は現在も研究が進められており、どれほどの影響があるのか詳しくはまだ分かっていない。ちなみに、この舞い上がったレゴリスはハリソン・シュミットを含む多くの宇宙飛行士の話によると”火薬のような匂い”がするという。

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月面に残された足跡。月のレゴリスは粉のように細かく、地球にあるような砂と異なり表面が尖っているため崩れにくく、足跡はこのようにしっかり残る。
このように非常に厄介なレゴリスであるが、月面開発においての希望でもある。あらゆる月面活動において月面基地の建設は必要不可欠であるが、月まで材料を運ぶのは非常にコストがかかるのだ。ある試算によれば材料1kgあたり約10万ドルも必要になるという。そこで、月に豊富にあるレゴリスが注目されているのだ。

レゴリスは月面開発に利用できるか?

レゴリスは宇宙から降り注ぐ強い放射線や昼夜の急激な温度変化、そして太陽フレアによる影響から月面基地を守る遮蔽(しゃへい)材としての実用が検討されている。ただし、十分な放射線を防ぐためには最低でも3m以上の被覆が必要になる。また、水と混ぜて焼き固めることによってある程度丈夫な建材を作ることができる。やや強度に問題はあるが、あとは水の問題さえ解決すれば材料は豊富にあるのだ。

レゴリスは主に酸化金属でできているので、これらを還元することによって鉄やアルミニウム、チタンなどの金属を精製して様々な部品を作ることができる。また、主成分は二酸化ケイ素なので溶解させてから急速に冷却させることでガラスやグラスファイバー、発電に重要なソーラーパネルなどを生産することもできる。将来的には、レゴリスに含まれるわずかなヘリウム3を利用して核融合を行うという構想も実現できるかもしれない。

様々な問題を引き起こす月のレゴリスであるが、月にある豊富な”資源”の1つであることは間違いない。人類が宇宙に進出し、月で活動するために利用しない手は無いだろう。

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