電子殻のアルファベットはなぜ「K」から始まるのか?

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”電子殻”は高校で学習する、原子核の周りにある電子軌道の層のことだ。K殻から始まりL殻,M殻,N殻,O殻,P殻・・へと順に電子が収容される。しかし、なぜ電子殻のアルファベットは「K」から始まるのだろうか?

実は、この「K」のアルファベットに特に意味はない。この「K」というアルファベットを最初に用いたのはイギリスの物理学者チャールズ・バークラの1911年の論文であったとされている。

原子に高エネルギーの電子などを当てると、原子の内殻にある電子が跳ね飛ばされてそこに空所ができる。すると、外殻にある電子はX線を放出しながらその空所へと移る(遷移)。バークラは、このとき特殊なX線(特性X線)が発生することや、そのX線のスペクトルに2つの系列が存在することを発見したのだ。

バークラは当初、発生する特性X線の波長が短い系列をアルファベット順に「A列」、波長が長い系列を「B列」としたが、もしかしたらさらに短い波長の特性X線の系列があるかもしれないと考え、「A列」ではなくアルファベットのおよそ中間にある「K列」、次の系列を「B列」ではなく「L列」として論文を発表した。

もし「A列」の内側に、さらに短い波長の系列が見つかった場合は、どのような文字をあてれば良いのか分からなくなってしまう。新しく見つかった短い波長を新たに「A列」と名付けて、もともと「A列」だったものを「B列」、「B列」にあったものを「C列」というようにずらしていってもいいが、そのようなことが何度も起きたあとに、論文などで「B列」と書いたとき「ずれる前のB列」なのか「ずれた後のB列」なのか分からなくなり、混乱が起きる場合もある。

そこで、あらかじめアルファベットの中間付近にある「K」を使って「K列」と名付ければ、もし新しく短い波長の系列が見つかってもアルファベットの「K」より前にある「J」を使って「J列」、さらに短い波長の系列が見つかれば「I列」・・・というように、問題なく新しく準備することができるからだ。

バークラはこの特性X線の発見により1917年にノーベル物理学賞を受賞、後にボーアの原子模型が発表され、この「K列」に対応する電子軌道を「K殻」、「L列」に対応する電子軌道を「L殻」として呼ぶようになったという。ちなみに英語圏で「K殻」は「K shell」というが、「K殻」を単に「1 shell」、「L殻」を「2 shell」と数字に対応させて呼ぶことがあるため注意が必要だ。

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