Monna Lisa flickr photo by mariosp shared under a Creative Commons (BY-SA) license
恐らくは“世界で最も有名な肖像画”であろうレオナルド・ダ・ヴィンチが描いた油彩画『モナ・リザ』。裕福な商人であったフランチェスコ・デル・ジョコンドという人物の依頼を受けて、ダ・ヴィンチが彼の妻であるエリザベッタ・デル・ジョコンドを描いたものとされている。
この作品が展示されているフランスのルーブル美術館には彼女を一目見ようと世界中から毎年数百万人もの観光客が訪れる。しかしながら、この有名な絵画の陰に隠れるように、もう一枚の『モナ・リザ』はあまり知られていない―――
“アイルワースのモナ・リザ“と呼ばれるこの作品は、ルーブル美術館に展示されている『モナ・リザ』と同様にレオナルド・ダ・ヴィンチ本人が描いたとされるもので、1913年にイギリスの芸術家・美術品コレクターであったヒュー・ブレイカーがサマセットのとある貴族の家から発見し、アイルワースの画房に持ち込んで所蔵していたものだ。それを後に美術品研究家のヘンリー・ピューリッツァーが再発見し、芸術的価値のあるいくつかの絵画や家を売り払ってこれを手に入れたという。
『アイルワースのモナ・リザ』は比較的暗い色彩で描かれており、肖像画の人物が若く描かれていることや、背景部が簡素なものとなっているなど全体の印象は大きく異なっているが、基本的な構成はルーブル美術館の『モナ・リザ』とほとんど同じである。
しかし、この『アイルワースのモナ・リザ』は不思議なことに、絵の左右に円柱が描かれているのだ。これはルーブル美術館の『モナ・リザ』には無い特徴である。発見者のヘンリー・ピューリッツァーによれば、この左右の円柱にはある”重要な事実”が隠されているかもしれないという―――
『モナ・リザ』(左)と『アイルワースのモナ・リザ』(右)。
ヘンリー・ピューリッツァーは、長年の研究の末にある驚くべき発表を行った。なんと、この『アイルワースのモナ・リザ』こそが、ダ・ヴィンチが依頼を受けて最初に手掛けたオリジナルの作品、つまり“本物”であると主張したのだ。
実のところ全く荒唐無稽な話というわけではなく、本物であることを疑わせる根拠はいくつかある。『モナ・リザ』に関する重要な資料の1つ、ルネサンス期の芸術家たちの来歴や活動記録が詳細に記されたジョルジョ・ヴァザーリの伝記『画家・彫刻家・建築家列伝』で紹介されているいくつかの特徴は、ルーブル美術館の『モナ・リザ』ではなく『アイルワースのモナ・リザ』によく一致している。特に「モナ・リザは未完成のままに終わった」という記述は多くの研究家が支持している。
また、肖像画の制作を依頼された当時のエリザベッタ・デル・ジョコンドの年齢は20代前半であったと推測されており、ルーブル美術館のものより比較的若く描かれているという点も合理的に説明することができる。さらに、ダ・ヴィンチと並ぶ巨匠ラファエロ・サンティが『モナ・リザ』を見てスケッチしたという絵画には左右に円柱が描かれているのだ。
しかしこれらはどれも憶測の域を出ない。ダ・ヴィンチの作品ではないと根本から否定する者もいれば、別人を同じ構図で描いたものであると主張する者もおり、上記の本物説はその数ある仮説の一つに過ぎないのだ。『モナ・リザ』の微笑みは、論争を繰り広げる私たちをあざ笑っているかのようだ。