はんこ注射(BCG)が使われている理由とは?なぜあの形なのか?

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現在は生後1歳までに接種することが定められているはんこ注射。自分の子供が予防接種を受けるときになって初めてその注射器を見て驚いた方も多いかもしれない。はんこ状の注射器には9本の針がついているのだ。なぜ、このような注射が使われているのだろうか?

はんこ注射はBCG(Bacille de Calmette et Guerin)と呼ばれる結核予防ワクチンの接種に用いられる。結核は結核菌によって引き起こされる感染症で、あらゆる臓器に感染するが主に肺に感染して肺結核を引き起こす。現代のようにまだ治療法や予防法が確立・普及されていなかったかつて日本にとって結核の脅威は凄まじく、1930年代の後半から1940年代にかけては死因第1位を占めるほどの病気だった。感染者の約9割は、感染しても症状が現れない不顕性(ふけんせい)感染であるが、抵抗力の弱い高齢者や、特に幼児は発病して重症化しやすいのだ。

BCGは、直訳では「ゲランとカルメットの菌」という意味だ。ゲランとカルメットはフランス・パスツール研究所の研究員でBCGワクチンは彼らが弱毒化させた結核菌株を元に作られている。

BCGワクチンは1921年に人に初めて接種が行われ,その効果が実証されてからは世界中で使用されるようになり,現在では全世界の85%以上の子供がBCGの接種を受けている。日本では1924年にワクチンの菌株がパスツール研究所から送られ,BCGの接種が行われるようになったが、当時は現在と異なり皮内注射という注射方式によって接種が行われていた。

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Y tambe (Y tambe’s file) [GFDL, CC-BY-SA-3.0 or CC BY-SA 2.5-2.0-1.0], via Wikimedia Commons
BCGを接種するためのはんこ注射器。

CGは当初,経口投与によって行われていたがあまり効果はなかった。次に皮下注射する方法が考案されたが,そのほとんどに潰瘍や腫瘍が発生したという。次に皮内注射と呼ばれる方法に切り替わったが、治りにくい潰瘍や腫瘍がしばしば発生し,目立つ痕が残るために問題となっていた。

経皮注射と呼ばれる方法でこれを避けようとしても、ある程度の技術が必要な上に皮内注射の100倍以上の濃度のものが使われることから、少しでも奥に注射してしまうと強い局所反応が現れるのだ。

そこで開発されたのが,現在でも使用されている9本の針がついたはんこ状の注射だ。腕にワクチンと溶剤を加えたものを塗り、9本の針を使って傷をつけ、そこからワクチンを直接吸収させるという特殊な経皮接種法である。

このようにして注入箇所を分散させ,針が刺さる深さを円形の外枠で抑えることで潰瘍や腫瘍,その他の局所反応を防ぐことができる。接種後は少し腫れるが,徐々に薄くなって次第に目立たなくなっていく。

あの9本の針は注射の跡を少しでも目立たなくさせ、局所反応を抑えるために考え出されたものなのだ。

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