媚薬にも利用されていた?非常に高価な「龍涎香」とは


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イギリス南西部ドーセット州の海岸で父親と散歩していた8歳のネイスミスは少し変わった石を発見し,家に持ち帰って調べてみた。その石にはなんと約500万円ほどの価値がある貴重なものだった。
彼が発見したのは「龍涎香」というもので,古くは王族や皇帝,貴族に薬品や香料として重宝され,千夜一夜物語(アラビアンナイト)にも書かれている幻の香料だったのだ。
中国では龍の涎が固まった香りのするものとされ,龍涎香の名がある。龍涎香は6世紀から既にアラビアでは利用されてきたがその正体は19世紀に入ってからも明らかではなかった。当時は海に落ちたハチの巣が長い間漂い続けて変化したものだと思われていたくらいだ。


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実際の龍涎香。これが海岸に落ちていたとしても通常,目に留めることはないだろう。しかし,近代捕鯨の解禁によってマッコウクジラの体内から龍涎香が発見された上に,龍涎香の中からはイカの硬質部分(カラストンビ)が見つかっており,未だ詳細は明らかではないがマッコウクジラが飲み込んだイカの硬質部分から体内を保護するために腸壁から分泌物を出して覆い固めて排出された油質の結石だと考えられている。また,龍涎香の香りが抹香に似ており,これがマッコウクジラの名前の由来になっているという。

龍涎香の価格は1gあたりなんと1万円以上にもなる。商業捕鯨が行われていた時期にはマッコウクジラの解体によって入手が可能であったが,現在では海上に漂っているものや海岸に打ちあがったものを採取する方法しかない上に加工すれば非常に優れた香料となるのでその価値は極めて高い。中国では香料だけでなく漢方薬としても重宝されていた。

龍涎香の上質な香りは媚薬としても利用されてきた。実際にカネボウ化粧品が行った実験では,龍涎香の主要香気成分を女性被験者に嗅いでもらい,映し出された写真の人物に対する親しみやすさを評価してもらったところ,香りを嗅いでいない場合と比較して写真の人物をより親しみやすいと思う傾向にあり,一種の媚薬効果は確認されている。また,同実験では女性ホルモンのエストラジオールの分泌量が多くなり,ストレスを表すコルチゾール値が減少していたことからリラックス効果も確認されている。

さて,この龍涎香であるが,日本で入手する事ができるのだろうか?実は和歌山県や沖縄では龍涎香発見の記録があるという。色や形も様々なのだが,特徴としては黒や茶色,灰白色が混ざっており,海に浮くほど比重が軽いこと,そして独特の強い香りがある事などが挙げられる。また,探すのであればマッコウクジラが生息する太平洋側の海岸を探したほうが良いだろう。これから始まる海水浴のシーズン,龍涎香が浜辺で寝転ぶあなたの足元にあるかもしれない。

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