男性なのにある時期から突然、乳房が大きくなるという「女性化乳房症」(乳腺肥大症)と呼ばれる病気が存在する。その原因は様々だが,場合によっては命に関わることもあるという。この女性化乳房症の原因とは一体何だろうか?
女性化乳房症といっても,女性と同じほどに肥大化するのは極めて稀で,大抵は乳首下にしこりができ、膨らみがつく程度である。
女性化乳房症の原因の多くは女性ホルモンの増加による乳腺の肥大や乳房組織の増殖だ。これは思春期に男性ホルモンより女性ホルモンの分泌量が相対的に高くなったり,男性の更年期に男性ホルモンの分泌量が低下して起きるもので、特に痛みがひどくなければ治療を必要とせず1~2年で改善されることが多い。
問題となるのは,明らかに乳房の肥大が見られる場合で、希望すれば乳腺の摘出や脂肪組織の除去による美容整形手術によって改善することができる。
女性化乳房症は稀に,先天的に発生する場合もあり、これはアロマターゼ過剰症と呼ばれる病気で,男性ホルモンのアンドロゲンを女性ホルモンのエストロゲンに転換するステロイド代謝酵素であるアロマターゼ酵素の活性に関与している遺伝子の異常により引き起こされ,乳房の肥大や身長の低下が見られる。
また,これは遺伝子異常なので女性も発症する。女性の場合,その多くのは無症状だと考えられているが一部の症例では月経異常や乳房の巨大化が報告されているという。このアロマターゼ症候群の生命予後は良好でアロマターゼ阻害剤を中心とした薬物治療を行う。
一部の薬品の副作用によっても女性化乳房症が引き起こされる事が知られおり、 この場合は薬品の摂取を中止する事で,数か月で症状が改善される場合があるが、その病気の治療に支障をきたすので中止する際には主治医に相談する必要がある。
女性化乳房症とは別に,皮下脂肪の蓄積によって乳房が肥大することもある。この場合は体質と生活習慣が大きく関わっているので生活の見直しを行うか、美容整形手術によって改善できる。
多くは心配の必要が無い女性化乳房症だが,時に問題となるような場合もある。例えば肝硬変などの肝臓の病気によって女性ホルモンの分解がうまく行われず,女性ホルモンが過剰となって女性化乳房症を引き起こすのだ。
特に気を付けなければならないのは乳がんである。乳がんは女性の病気だと思われている事が多いが、乳がん患者のうち1%は男性で,がんの進行は女性よりも早い場合が多く,早期発見が重要となる。
このように,重篤な病気が隠れている場合もがあるので女性化乳房症が疑われる場合は念のため乳腺外科を診療する事をお勧めする。