皮膚から放出される微量なガスを検出して可視化する「探嗅カメラ」

2020年1月5日

探嗅カメラ
photo by ”Transcutaneous Blood VOC Imaging System (Skin-Gas Cam) with Real-Time Bio-Fluorometric Device on Rounded Skin Surface

ヒトよりも嗅覚が優れている犬は、ヒトが放出する特定の揮発性有機化合物(VOC)の匂いを感知し、がん患者を区別するできる。報告によると、吐く息から肺がんや乳がん、血液の匂いから卵巣がん、肌の匂いから皮膚がん、便の匂いから大腸がんを発見することができたというのだ。このような”匂い”を検出して病気を見つける能力は、医療分野において大きな注目を集めている。

最初は、ヒトが吐く息から揮発性有機化合物を検出するという試みがなされた。採血する必要は無いため、これまでの検査方法を覆すような非常に画期的なものであったが、長時間連続して計測するためには特殊なマスクを装着し続けなければならない。

近年では吐く息だけでなく、私たちの「皮膚から放出されるガス」の測定も行えるようになった。揮発性有機化合物は、私たちの皮膚からも微量ではあるが常に放出されているからだ。しかし、その濃度は10億分の1~1兆分の1というスケールであり、皮膚ガスを検出するためには計測する身体の部分を密閉して長時間皮膚ガスを採取し、さらに濃縮処理などを行った後、ガスクロマトグラフィー質量分析装置などの大型分析器で計測しなければならなかった。

そこで、従来までのこうした皮膚ガス計測の問題を解決するために、東京医科歯科大学大学院 生体材料工学研究所が開発したのがガスイメージング装置「探嗅(たんきゅう)カメラ」だ。

この技術は、例えばエタノール(または代謝されたアセトアルデヒド)を検出する場合、皮膚から放出される微量なエタノールガスを触媒反応によって化学変化させ、さらに生成された物質を紫外線照射によって蛍光させてから、これを高感度カメラで計測して蛍光強度に応じたエタノールガス濃度をリアルタイムに画像化するというものだ。

皮膚ガスというと”体臭”を想像するかもしれない。確かに、体臭の匂い成分は揮発性有機化合物が原因だ。しかし実際には、ヒトの嗅覚では匂いすら感知できない「極低濃度のガス」や、そもそも匂いのない「無臭成分」も含まれる。この探嗅カメラでは、本来は感知できない「匂いが分からない化学物質」や「匂いのない化学物質」でも、視覚的に捉えることができるのだ。

また、この探嗅カメラによって、皮膚ガスの検出は耳周辺が最適であることが明らかになった。耳周辺では発汗が少ないうえに、さらに表皮が薄いのだ。特に耳道開口部が揮発性成分の測定に最も適した部位であるという。

今回の発表ではエタノールガスを計測しているが、反応させる触媒の種類を変更することで、別なガスの計測も可能だ。この技術を使えば、例えば糖尿病患者で発生するアセトンガスを早期に診断できたり、皮膚ガンや乳ガンで放出される特定の皮膚ガスを検出して病巣を可視化するといった医療分野における使用はもちろん、シックハウス症候群の原因となる成分を可視化して住環境を評価したり、果物から発するガスを検出して、果物に触れることなく成熟度などを調べるといった、様々な分野への応用が期待できる。

この技術は特に、医療分野で大きな活躍が期待されるだろう。いずれは、私たちがどんな病気にかかっているか、臭いだけですぐに分かるようになるかもしれない。

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