ALS患者の脳脊髄液から特殊なタンパク質を検出、発症メカニズムに関与している可能性

2019年12月01日

身体を動かすための神経が変性し、全身の筋肉が徐々に動かせなくなる筋委縮性側索硬化症(ALS)の患者のうち、9割を占める非遺伝性の患者について、脳脊髄液から毒性の高い異常な「SOD1タンパク質」が検出されることを、慶応義塾大学をはじめとする合同研究チームが明らかにした。

筋萎縮性側索硬化症(ALS)とは?

筋萎縮性側索硬化症(Amyotrophic lateral sclerosis:以下、ALS)は、脳や末梢神経からの命令を筋肉に伝えるための運動ニューロンという神経細胞が侵される神経変性疾患の1つで、患者は徐々に全身の筋力が低下して衰え、数年ほどで眼球運動や呼吸すら困難になってしまう。日本での患者数は1万人程度で、60~70歳で好発し、男性にやや多い傾向がある。「車椅子の物理学者」として知られるイギリスの理論物理学者、スティーブン・ホーキング氏がALS患者であったことはよく知られている。

ALSの約10%は遺伝性がみられる

ALS患者のうち、全体の約10%は遺伝性であることが知られており、ALS患者の家族や近親者にも病気の罹患者がいるという”家族歴”が確認される。これはSOD1タンパク質を作るSOD1遺伝子と呼ばれる遺伝子の変異によって引き起こされていることが明らかになっており、マウスにこの変異したSOD1遺伝子を導入すると、そのマウスにはALSと同じ症状が現れるようになる。
変異したSOD1遺伝子は毒性の高い異常なSOD1タンパク質を作るため、これが運動ニューロンに影響を与えているものと考えられているが、全体の約90%を占めるALS患者は家族歴のみられない非遺伝性で、SOD1遺伝子にも変異はなく、ALSを発症する機序はこれまでよく分かっていなかった。

今回、慶応義塾大学をはじめとする共同研究チームはSOD1遺伝子に異常がなくてもALS患者から異常化したSOD1タンパク質が検出されるという仮説を立て、異常化したSOD1タンパク質に対して選択的に認識する抗体を使って、脳脊髄液から検出を試みた。
その結果、ALSの患者21例において全てのALS患者の脳脊髄液から、異常化したSOD1タンパク質が検出されたという。また、パーキンソン病や進行性核上性麻痺といった、ALSと同様の神経変性疾患の患者の一部では異常化したSOD1タンパク質が検出されたという。しかし、神経変性疾患ではない患者の脳脊髄液からは、異常化したSOD1タンパク質は全く発見されなかった。

異常化したSOD1タンパク質がALSの発症要因?

研究チームらは、この異常なSOD1タンパク質が運動ニューロンに与える影響を調べるために、運動ニューロンと同等の培養細胞「NSC-34」に、異常化したSOD1タンパク質を添加させた。すると細胞の生存率は約40%にまで低下したが、異常化したSOD1タンパク質を除去すると、細胞の生存率は約80%にまで回復したという。
やはり、遺伝していない”孤発性”のALSでは、何らかの理由によってSOD1タンパク質が異常化し、これが運動ニューロンに対して影響を与えている可能性がある。さらに、ALS以外の神経変性疾患の患者からも異常化したSOD1タンパク質が確認されたことから、異常化したSOD1タンパク質は他の神経変性疾患の発症や進行に関わっているのかもしれないのだ。ALSをはじめ、多くの神経変性疾患では発症メカニズムが明らかになっていないが、この異常化したSOD1タンパク質が重要な鍵となっているのかもしれない。

慶応義塾大学-プレスリリース

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