メダカの”冬季うつ”を利用して、ヒトの季節性感情障害のメカニズムを明らかにする

メダカの冬季うつを利用して、季節性感情障害のメカニズムを明らかにする

季節性感情障害とは、秋から冬にかけて発症する周期性のうつ病で、「冬季うつ」とも呼ばれている。過眠や過食、引きこもり傾向や性欲の減退などの症状がみられ、日照時間の短い高緯度地域でよくみられるという。一説によれば、冬眠や季節繁殖の名残であるとも言われており、その原因やメカニズムは分かっておらず、治療は難しい。

実は、この冬季うつはヒトだけでなく他の動物にもみられる。例えばメダカでは、夏には他の個体に興味を示し、他の個体の近くに長く滞在するのに対して、冬では他の個体に興味を示さず、ランダムに泳ぐという。また、夏では明るい場所を好むのに対して、冬では暗い場所を好むようになるという。他の個体に興味を示さないのは社会性の低下、暗い場所を好むのは不安が強いことを示しており、ヒトの冬季うつと似た症状が現れるのだ。

メダカの冬季うつ症状
夏季には他の個体と近い”preferential area”を好むのに対し、冬季になるとこの傾向は無くなる(左図)。また、夏季では明るい”light area”を好むのに対し、冬季では”dark area”を好むようになる。(右図)
名古屋大学トランスフォーマティブ生命分子研究所HPより

名古屋大学の研究チームらは、夏と冬のメダカで脳内のどのような代謝産物が変化しているかを調べた。すると、ヒトのうつ病に密接に関連することが知られているセロトニンやトリプトファン、チロシン、グルタチオンなどの68種類もの代謝産物の量が夏と冬で変動していることが明らかになった。

また、脳内の発現遺伝子についても調べたところ、体内時計を制御する遺伝子や炎症反応に関与しているサイトカインなどの発現量も変化していることが明らかになったという。近年ではうつ病と脳内における炎症との関連性が注目されており、メダカもヒトと同様に、海馬に相当する部分で炎症反応により神経細胞に変化が起きていることが明らかになった。

これらの解析結果から、研究チームは3年かけて既存の治療薬をスクリーニングし、選ばれた112種類の既存薬のなかから、メダカの冬季うつ症状を回復させる有効成分「セラストロール」を発見した。

セラストロールは抗炎症作用や抗がん作用などが確認されていたが、中枢神経系への効果はこれまで知られていなかった。この成分はNRF2抗酸化経路を活性化させ、脳内の手綱核(たづなかく)におけるNRF2遺伝子の発現を高めるという。NRF2遺伝子が働かない変異体メダカでは、社会性が低下することから、これがどうやらメダカの冬季うつの発症メカニズムに関与しているようだ。

ヒトの脳機能は魚と比較して大きく異なると考えられているが、手綱核のような神経回路はヒトにおいてもよく保存されており、近年ではゼブラフィッシュやメダカなどの魚類が精神疾患のモデル動物として注目を集めているという。これらの研究成果は、ヒトの季節性感情障害を治療するための大きな手掛かりとなりそうだ。