このほど、北海道大学総合博物館と山階鳥類研究所の研究グループは、国の特別天然記念物であるアホウドリ(Phoebastria albatrus)が、実は2種であることを明らかにしました。
アホウドリは翼長3.5mにも達する大型の鳥類で、非繁殖期となる夏季ではベーリング海やアリューシャン列島周辺などに暮らし、繁殖期の冬季ではおもに伊豆諸島の鳥島や尖閣諸島の2か所で繁殖を行います。
アホウドリはかつて羽毛を目的とした乱獲により個体数が急激に減少し、1949年の調査では一度絶滅が宣言されたことがありますが、1951年に鳥島で、1971年には尖閣諸島でそれぞれ約10羽が再発見されました。現在では保全活動によって約6,000羽にまで回復したと推定されています。
このとき、繁殖地が一つになったことなどからアホウドリは暗黙のうちに1種のみとされてきました。
しかし、遺跡から出土した約1,000年前のアホウドリの骨に異なる2つのグループが見つかっていることや、尖閣諸島と鳥島のアホウドリはヒナの巣立ちに2週間の差があること、さらにいずれも同じタイプのアホウドリをパートナーに選ぶ傾向があることなどから、アホウドリが2種に分かれていることが以前から指摘されていました。
これらが異なる2種であることを確かめるため、詳しく調査することが望まれていましたが、一方のアホウドリの繁殖地が尖閣諸島であることから、調査を行うことはこれまで困難でした。
そこで研究者らは、鳥島に”移住”してきたアホウドリに注目しました。鳥島で生まれた鳥にはほぼ全ての個体に標識足輪が付けられていますが、尖閣諸島で生まれてから鳥島に移住してきた個体には足輪が付けられていません。
これを利用して、研究者らは標識足輪の付いたアホウドリと標識足輪の付いていないアホウドリをそれぞれ捕獲し、DNA解析を行って性別を特定するとともに、それぞれ異なるタイプであることを確認したうえで、くちばしの長さや太さ、体重などの26項目を計測しました。
その結果、鳥島のアホウドリのオスは26項目のうち24項目で尖閣諸島のアホウドリのオスよりも平均値が大きく、統計学的には16項目で有意差が認められました。どうやら、鳥島のアホウドリは尖閣諸島のアホウドリよりも全体的なサイズが大きいようです。
左側のペアが鳥島タイプ、右側のペアが尖閣タイプのアホウドリ。鳥島タイプの方が全体的に大きいことが分かります。
北海道大学のプレスリリースより
また、一方で尖閣諸島のアホウドリのオスは鳥島のアホウドリのオスよりもくちばしが細長いことが明らかになりました。主成分分析によると、これらの特徴はオスだけではなくメスにも当てはまるようです。
▽鳥島タイプのアホウドリ。
北海道大学のプレスリリースより
▽尖閣タイプのアホウドリ。
北海道大学のプレスリリースより
以上のことから、両タイプのアホウドリは一見するとよく似ているものの、遺伝的・形態的にも全く異なる歴史を持つ別種であると結論付けられました。
研究者らは今後、「アホウドリ」という名称は鳥島のアホウドリのみを指し、尖閣諸島のアホウドリを「センカクアホウドリ」と呼ぶことを提案しています。また、従来までのアホウドリの学名「Phoebastria albatrus」をどちらの種が引き継ぐべきか、分類学的な検討を行っていく方針であるといいます。
OGP Photo – Short-tailed Albatross | Midway | 2012-12-29at16-14-04 flickr photo by Bettina Arrigoni shared under a Creative Commons (BY) license