私たちの脳は、初対面の人と会うと「相手が好みかどうか」を無自覚に判断することが知られていますが、私たちは逆に、「相手から好まれるかどうか」を無自覚に考えているのでしょうか?
もしそうなのだとしたら、それはどれくらい正確なのでしょうか。
顔を見ただけで「この人は好きじゃないし、この人からは好かれないだろう」と判断したことのある人は多いでしょうが、私たちはそれを正確に判断できているのでしょうか?
高知工科大学の研究者らは、20歳代の大学生の男女43名を対象に実験を行い、実際にそれを確かめてみました。
被験者の43名の大学生らは、機能的磁気共鳴画像法(fMRI)で測定しながら、約60名のさまざまな異性の顔写真を1枚ずつ見てもらいました。この約60名の顔写真のなかには、実験の参加者も含まれています。
この課題のあと、被験者は別室で顔写真を改めて確認し、「それぞれの人物がどれくらい魅力的か」、「どれくらい好みか」、「もっと話したいかどうか」を7段階で評価してもらい、さらに「自分がその人物からどれくらい好かれそうか」についても評価してもらいました。
さらに被験者は後日、実験に参加した異性全員と3分間だけ会話したもらい、「話をした人物がどれくらい魅力的か」、「話をした人物からどれくらい好かれそうか」について、再び評価し直してもらいました。
見ただけでは「相手から好まれるかどうか」を予測できないが、会話後なら予測できる
実験の結果、相手の顔写真を見ただけでは「相手から好まれるかどうか」を正確に予想できないことが分かりました。その一方で、3分間会話した後では、「相手から好まれるかどうか」、「相手からどれくらい魅力的と思われているか」、「相手が自分ともっと話したいかどうか」をある程度、正確に予想できることが明らかになりました。
つまり、私たちは顔を見ただけでは相手との相性を予測できず、会話することではじめて正確な予測が行えるようです。
会話の印象はお互いに一致、ただし同じくらい好意を抱くとは限らない
また、相手と会話が弾んだかどうかは、お互いによく一致していることが明らかになりました。すなわち、盛り上がったと思っていたが、実際のところ相手は退屈していた、というようなギャップはあまり起きていないようでした。
ただし、お互いに会話が弾んでいたと感じていても、お互いが同じだけ好意を抱くとは限らないようです。
fMRIの検証でも興味深い結果が明らかに
では、脳科学的な見地からはどのような結果が明らかになったのでしょうか。解析によると、「相手から好まれるかどうか」という印象予想は、脳の前方にある前頭前野の、さらに内側下方部にある「腹内側前頭前野」で自動的に処理されていることが明らかになりました。
この領域は感情制御や自己認識などのさまざまな役割を担っており、「相手が好みかどうか」に関わる情報処理にも関わっているとされています。
すなわち、「相手から好まれるかどうか」という予測は、「相手が好みかどうか」という脳の領域と同じ部位で処理されていることが明らかになりました。研究者はこのことについて、「相手が好みかどうか」によって「相手から好まれるかどうか」を判断している可能性が高いと指摘しています。
私たちの人間関係を”ややこしくしている”ものの正体は、ここにあるのかもしれません。
・3分間の会話後では、ほぼ正確に予測できる。
・会話が弾んでいたかどうかの印象はお互いによく一致する。
・たとえお互いに会話が弾んだと感じても、相手が同じだけ好意を抱いているとは限らない。
・「相手が好みかどうか」と「相手から好まれるかどうか」という判断は、腹内側前頭前野という同じ脳領域で自動的に処理されている。
・私たちは「相手が好みかどうか」という情報をもとに「相手から好まれるかどうか」を予想している可能性がある。