まるで考えているように最適なタイミングでエサ場を移動する細菌を確認、筑波大学

たくさんのエサがあるかもしれない「新しい場所」に移動するか、それともエサがあることが分かっている「現在の場所」に居座るのかという最適採餌戦略は、あらゆる生物にとって大きな問題です。

エサがある現在の場所に居続ければエサは取れますが、エサは少なくなってくるためにだんだん効率が悪くなってしまいます。より多くのエサを獲得するためには、適切なタイミングで移動する必要があるのです。

こうした”駆け引き”は鳥や昆虫といった、ある程度の高度な認識能力がある生物だけの問題とされてきました。しかし、筑波大学の研究者らは、Vibrio ordariiという細菌が適切なタイミングでエサ場を移動していることを発見しました。


Vibrio ordariiは魚にビブリオ病を引き起こす細菌として知られています。

海のなかの細菌も”エサ場”を必要とする

海水中では、エサとなる有機物は均一に分布してるのではなく、まとまりとして局在しています。細菌などの微生物は、こうしたエサ場を訪れては、有機物を取り込んでいます。

栄養が豊富な海域に住む富栄養性細菌は、反応によってだいたい2種類に大別されます。1つはエサ場にしっかりと定住してエサを取り尽くしてから移動するものと、もう1つは定住せず常に新鮮なエサを求めて移動し続けるものです。

エサ場に含まれる栄養は周囲の海水に溶け出し、時間の経過とともにだんだんエサ場としての質は低下していくので、いずれは移動しなければなりません。しかし、移動するためにはエネルギーを消費する必要があります。

単細胞生物である細菌は、取り尽くしてから移動するか、常に移動し続けるという二択しかないと考えられてきました。しかし、筑波大学の研究者らは、Vibrio ordariiという細菌がそのいずれとも違う行動を示すことに気付きました。

Vibrio ordariiは質の高いエサ場だけを選んで定住し、エサ場の質が下がると積極的に新しいエサ場を探しに出るという、細菌ではこれまでに観察されたことのない”賢い”行動をとることが分かりました。

まるで考えているかのようにエサ場を移動する

それでも研究者らは、このVibrio ordariiが一定の基準値(閾値)をもって、単純に判断しているものと考えていました。つまり、このVibrio ordariiが海水中に含まれる栄養分の濃度を感じ取り、「ある基準値よりもエサが少なくなったから移動する」という単純な仕組みであると予想していたのです。

しかし、詳しい解析を行った結果、なんとこの細菌はエサ場の質に応じて、滞在時間を変えていることが判明しました。

つまり実際は、「最初にエサ場にやってきたときの質が良いほど滞在時間を長く、質が悪いほど滞在時間を短くする」というように、エサ場の質に応じて滞在時間を調整していたのです。

エサの摂取量は最大で10倍にもなる

なぜ、このような仕組みを持っているのでしょうか。実は、「新しいエサ場までの距離」に関係していました。例えば、新しいエサ場を発見しても、別の場所にもっといいエサ場があるのなら、長く滞在せずにとっとと移動したほうが良い場合もあります。

鳥や昆虫の場合は質の高いエサの場所と距離を記憶しており、滞在時間を調節して適切なタイミングで移動することで、1日あたりのエサの摂取量を最大にすることが知られています。「新しいエサ場までの距離」と、何か関連があるかもしれないと考えた研究者らはさらに解析を進めました。

研究者らがこの理論をもとにデータを比較してみると、なんとVibrio ordariiは新しいエサ場までの距離が変動しても、1日あたりのエサの摂取量が高いレベルに保たれるように滞在時間が”設定”されていることが明らかになったのです。

こうした仕組みによって、Vibrio ordariiはなんと、こうした採餌戦略を行わない他の微生物と比べて最大およそ10倍もの栄養を得ることができるといいます。

今回の研究は一見すると無秩序に見えるバクテリアの世界も、数学的モデルで説明できることを示しています。

論文の特筆者は「こうした原理に基づいた微生物の理解が進めば、いずれは地球温暖化などによって海洋微生物の生態がどのように変化が起きるのか、といった複雑な事象を予測するモデルを構築できるかもしれない」とコメントしています。

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