人は”夢の中”で恐怖の反応をトレーニングする、ジュネーヴ大学の研究

2020年1月25日

最近、あなたはどんな「悪夢」を見ただろうか?もし、夢でみたような状況が現実に起きたとき、あなたは少しだけ落ち着いて対応することができるかもしれない。

悪夢で恐怖をトレーニングする

知らない人から追いかけられる、無数の虫が湧き出てくる、不気味な場所に迷い込む――私たちはしばしば、不快または恐怖の感情を伴う悪夢をみることがあるが、夢の内容が”たまたま”悪いものだったのではなく、その人にとっての恐怖の対象が夢に反映されているのかもしれない。私たちの脳は、恐怖の対象をあえて夢に出現させることで、現実世界で起きた場合の反応を”トレーニング”している可能性があるのだ。

スイス・ジュネーヴ大学の睡眠認知研究室(Sleep and Cognition Laboratory)の研究者らは、18人を対象に夢を分析して、悪夢を見ているときに脳のどのような領域が活性化するかを高密度脳波計(EEG)を使って観察した。その結果、夢の中で恐怖体験をしたときに活性化する脳の領域と、覚醒状態で恐怖体験をしたときに活性化する脳の領域は同じであることが分かったという。つまり、脳科学的には悪夢を見ているとき、私たちは実質的にその出来事を体験しているということになる。

nightmare
nightmare flickr photo by Sergei_41 shared under a Creative Commons (BY) license
悪夢は6~10歳の子どもに最も多くみられ、大人になるにつれ悪夢の頻度は徐々に減少する。

恐怖で活性化する島皮質と帯状皮質

夢を見ているときに感じる恐怖の発生には、島皮質(とうひしつ)帯状皮質(たいじょうひしつ)の2つの領域が大きく関与していた。島皮質は痛みを感じたり、痛みの予測に関連しており、恐怖を感じることで自動的に活性する領域だ。一方で、帯状皮質は恐怖の記憶や恐怖に対する運動または行動に関連している。

研究者らは、悪夢を見ているときにこれらの脳領域が活性化するという仕組みが、実際に恐怖を体験したときにどのような影響を与えているのか詳しく調べるために追加実験を行った。集められた89人の被験者には1週間、夢の内容や夢についての感情について詳細に記録してもらい、最終日に磁気共鳴画像法(MRI)を使って、恐怖を引き起こすような画像を見せたときの脳の活動を計測した。

その結果、夢で恐怖を感じる時間が長いほど、実際に恐怖刺激を受けた場合に島皮質や帯状皮質、そして感情と記憶を司る扁桃体などが活性化されにくくなっていたことが分かったという。さらに、扁桃体の活動を抑制する内側前頭前野の活動と、悪夢をみた回数には明らかな関連性がみられたという。

これらの研究結果は、睡眠中に脳が恐怖の状況をシミュレートし、夢であらかじめ経験することによって、実際に恐怖を感じるような危険に直面したときに、うまく対応するための”トレーニング”を行っている可能性を示唆するものだ。

精神的な問題が原因であることも

ただし、睡眠が妨げられてしまうような悪夢を頻繁に見る場合は別だ。恐怖レベルが一定以上になると”トレーニング”としての有益性は失われ、日常生活に支障をきたす恐れがある。

極度に疲労しているときやストレスが溜まっているとき、病気で発熱しているときや、お酒を飲んで寝たあとなどには悪夢を見やすくなることが知られているが、これらの要因とは別に悪夢を頻繁に見る場合は精神的な問題を抱えていることも少なくない。

例えば、心的外傷後ストレス障害(PTSD)の患者では、トラウマに関連する悪夢をみることが多くなる。これらは恐怖の反応に対応するために、脳が必要以上の”トレーニング”を行っているかもしれない。トレーニングのやり過ぎが身体に良くないことは、どうやら夢の中においても同じようだ。

治療が必要なほどの精神的要因が背景となっている場合もあるため、頻繁に悪夢をみる人は注意が必要だ。

関連記事

世界各地の人々が、夢の中でこの「This man」を目撃しているという――
お酒を飲むと眠りやすくなるのは確かだが、悪夢によって目を覚ます確率は高くなる。
刑務所では囚人たちも恐怖によって、さまざまな症状が表れることがある。
宇宙飛行士の大半は睡眠障害に悩まされている。

医学カテゴリの最新記事